1、臺灣大學圖書館特藏組所蔵平曲譜本の研究。平成23年3月から始めた閲覧調査である。平成27年度は、平成27年9月と平成28年3月に、調査を行った。三種4点の譜本のうち、『平家物語 節附語り本』(波多野流平曲譜本)二册および『平家正節』(前田流平曲譜本)十五册について、本文翻字入力作業を中心とする調査を行った。波多野流譜本は墨譜入力のための外字の準備がないので、本文および曲節指示のみにとどまらざるを得なかったが、『平家正節』は墨譜入力のための外字を持っているので、テキストにあわせて墨譜を入力した場合もある。しかし、いずれの譜本も、影印と併せて出版される予定であるから、入力原稿に墨譜を入れることができなくても、墨譜を確認することは可能である。 2、當道資料の研究。新潟大学蔵『妙音菩薩抄』は、書名がこれまで知られていなかった新出資料だが、既に知られている『妙音講縁起』の異本であると認め、翻刻紹介を行った。 3、「一部平家をめざして」の開始。本研究「平曲伝承資料の基礎的研究」の大きな基礎となっているのは、平曲演奏家・橋本敏江師から私が、長年お教えを受けた実際の演誦技能である。『平家正節』による演誦の伝統を会得することで、他の譜本の諸問題に迫ることができるのである。橋本師からの伝受がほぼ終わりに近づいたのと、橋本師の勧めもあり、また本研究の主要部分の社会的還元という意味もあり、「一部平家」(平家物語の琵琶語りを物語順に全巻全句行うこと)を始めた。会場は神奈川県立横浜翠嵐高等学校で、入場無料とし、平成27年11月15日を第一回に、本年度は平成28年1月30日まで五回開催した。 4、甲南女子大学本『平家物語』の翻字。継続して行っているものだが、本年度は、卷第十「三日平氏」から卷第十一「志度合戦」までの10章段の翻字入力が終了した。
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