2012年1月に刊行した『国学史再考―のぞきからくり本居宣長』(新典社)は、今後の計画を進める上で、最も重要な成果と位置付けられる。当該書籍は選書の形態をとっているが、内容的には国学史上の多くの新見を盛り込んだものであり、それなりの評価を得ている。これを同専門の研究者に配布してピアレビューを受け、来年度以降の研究の方向性を確かなものとする。すでに学会誌2誌、専門書評新聞1紙に書評の掲載が決定している。また、「幕末勤皇歌研究と時局」(『紀要』39号、2012年3月)は、今後の研究の雛形となる成果である。次に「幕末の江戸歌壇―一枚刷『東都歌仙窓の枝折』をめぐって」(『国語と国文学』88巻5号、2011年5月)は、個別の作品研究であると同時に、幕末における宣長学の広がりを確認する業績である。以上の二論文は、宣長の幕末における受容史に関わる成果であり、幕末から維新にかけての享受史に焦点を当てる本研究の実質的な成果である。さらに、鈴木健一編『和歌史を学ぶ人のために』(世界思想社、2011年8月)の一部として発表した「県居派・江戸派・桂園派の歌人たち―江戸時代中・後期」は宣長と同時代における歌壇について、江戸・上方の別を問わずに概観した論文であり、本研究を進める上で土台となる研究成果といえる。これも入門書の一部ではあるが、新見を多く盛り込んだものであり、当該研究を推進する上で必要欠くべからざる一里塚と言ってよい。
|