本課題研究は、以下の成果を得た。 (1)本居宣長の著作の受容史 (2)国文学研究史上の本居宣長の役割 それぞれについて詳述する。(1)宣長の著作の受容は、刊本『古事記伝』『古今集遠鏡』『新古今集美濃の家づと』『源氏物語玉の小櫛』『玉あられ』について、それが同時代および後世にいかに受け止められ、継承されたかという点を追究した。『古事記伝』は御杖・篤胤・守部が批判的に継承した。『古今集遠鏡』は景樹や知至等は批判し、美成は増補する形で称揚した。『新古今集美濃の家づと』は門弟との問答や春海からの批判を経て、正明『尾張廼家苞』が出るに及んで、完膚なきまでに批判された。『源氏物語玉の小櫛』は朖が補遺を出し、守部が批判し、広道が宣長の精神を受け継いで創造的な注釈書『源氏物語評釈』を刊行した。『玉あられ』は『玉あられ』論争と呼ばれる論争に発展する契機になった。春海や千蔭が匿名で批判し、高蔭がそれを受けて立ち、広道や文雄、広足は補遺や増補をした。近代以降は歴史的役割を終えた。 (2)国文学研究史上の宣長の役割は、本文批判・俗語訳・文学史・「物のあはれを知る」説・係り結びの法則など、近代国文学における基盤となる手法について、宣長がいかに先進的な考えを持っていたかを追究した。本文批判については、厳格な手続きに拠りながらも直観による誤字の認定をおこなった。俗語訳については、古今集歌の全歌の全文口語訳という前代未聞の取組みをおこなった。文学史については、国学者の中では珍しく中世文学を認める立場を取り、同時代の作品にも古典文学作品に通じる価値を見出すことによって、上代から当代までの通史を構築した。「物のあはれを知る」説は、恋愛論・認識論・共感論といった近代人文学を先取りする考え方であった。係り結びの法則については、膨大な用例の整理・分析により、中世以来の詠歌の作法から言語法則へと昇華させた。
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