研究課題/領域番号 |
23520222
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
奥村 和美 奈良女子大学, 文学部, 准教授 (80329903)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 国文学 / 萬葉集 / 長歌 |
研究概要 |
後期萬葉、中でも大伴家持の長歌について研究を進めた。特にこれまで、越中赴任期間の家持の長歌作品については、「山柿」を誰に比定するかということを中心に山上憶良の歌と柿本人麻呂の歌からの摂取が多く論じられてきた。 しかし、今年度の本研究によって、家持の「立山賦」(巻17・4000~4002)の詳細な検討を通して、山部赤人の歌からも意欲的に摂取し、新しい表現世界を切り拓こうとしていたことが明らかになった。とりわけ、本研究の成果が、従来説と異なって意義をもつのは、大伴池主がそのような家持の試みをよく理解し、「敬和立山賦」(巻17・4003~4005)において、家持に共鳴しまた張り合うようにして赤人歌からの摂取を行っていたことを表現に即して明らかにしたことにある。家持と池主との歌による交流の研究は、従来、家持歌の分析にかたよりがちで、池主歌の分析は手薄であったが、本研究によって池主歌の分析を通して家持歌に新たな光をあてることができることが示されたとも言える。 また、家持が「立山賦」において、雪山という、大和ではあまり取り上げられることのない素材を詠む際に、中国詩文の表現方法を巧みに応用したことも明らかにした。そこでもまた、池主が「敬和」において家持のそのような方法をよく理解し、同様の方法つまり中国詩文の表現方法を用いて密接に応えている。池主の応え方を分析することにを通して、家持の最もよく意図したところとその試みの新しさを浮かび上がらせることに本研究は成功したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の計画は、大きくわけてI「類歌・類句の再検討」とII「大伴池主の長歌作品との比較対照」の2点あった。そのうち、IIについては、家持の「立山賦」とそれへの池主の「敬和」とを分析することによってある程度達成され、大きな成果を得た。 一方、Iについては、赤人歌からの利用の状況の検討は進んだが、他の歌人の歌からの利用についての検討はまだ取り組めていない。その点で研究は当初の目的の達成においてやや遅れていると言わざるをえない。 しかしながら、同時に中国文学からの摂取についての考察も進めたため、平成24年度の計画をやや先取りして行い、その成果を生んだ結果となった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度に使用する予定の研究費として、193,248円の研究費が生じた。これは、Iの「類歌・類句の再検討」が、やや遅滞したことにともなって生じた額である。24年度はこのI「類歌・類句の再検討」により重点を置いて研究を行う。従来の、家持の歌ごとに検討するという研究方法とともに、特定の先行歌人に絞り、その歌人からの表現の摂取を検討するという研究方法をも取り入れ進めていく。これは23年度の研究の成果をうけた研究方法の見直しである。 さらに、家持長歌の一部が、中国文学の「賦」や「詠物」から強い影響を受けてきたことを鑑みて、中国詩文からの摂取について、発想、構成、語彙、表現等、種々の点から綿密な検討を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
ひき続き類歌・類句の再検討を行うために、参考となる萬葉集関係図書、及び上代国文学関係図書を購入する。次年度に使用する予定の研究費として生じた193,248円はこれに当てる。 また中国詩文からの摂取の検討を行うために中国文学関係図書を購入する。 加えて上代の国文学と中国文学の関係について、専門研究者より専門的知識の供与を受ける。
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