研究課題/領域番号 |
23520222
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
奥村 和美 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (80329903)
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キーワード | 萬葉集 |
研究概要 |
後期萬葉和歌の表現の特質について研究を進めた。後期萬葉の和歌には、漢語を翻訳して生み出された翻訳語をしばしば利用することが指摘されてきた。それを承けて、今年度の研究では、正倉院文書を通して、上代の官人達が日常用いている漢語をもとに作られた翻訳語及び翻訳的表現の幾つかを新たに指摘し、後期萬葉長歌の表現にもそれらが利用されていることを明らかにした。これによって、山上憶良や大伴家持の、漢字表現を摂取して成り立つ和歌表現の別の一面に光を当てることができた。 また、上代の知識人の漢字についての教養の基層をなす初学書『千字文』を視野に入れて、後期萬葉和歌の文字表現についての分析をおこなった。近時、『千字文』習書木簡等の発見により、その初学書としての重要性に関心が集まってきているが、萬葉和歌における受容の考察はそれほど進められてこなかった。本研究では、その書の手本としての性格を考慮して、文形や字体などの文字のかたちにまで即した分析を行うことによって、萬葉集の本文研究につながる成果を挙げつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成24年度の計画は、I「類歌・類句の再検討」に重点を置いた。幾つかの翻訳語とまた翻訳語を生み出す方法について、新たに指摘しえた点は意義ある成果と言えよう。山上憶良から大伴家持へと至る翻訳語の流れを取り出したことも成果の一つと言える。ただし翻訳語の認定は個々の表現に即して慎重に行わねばならず、家持歌の、特に長歌についてのトータルな把握にはまだ達していない。その点では、研究は当初の目的の達成においてやや遅れていると言わざるをえない。しかしながら、『千字文』を積極的に視野に入れたことによって、文字使用の面の考察において当初予想していなかった成果をも生んだ。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度も引き続き、I「類歌・類句の再検討」に重点を置いて研究を行う。その際、分析を進める上でその有効性が確認された『千字文』をさらに積極的に活用する。このことによって、家持長歌の中国詩文からの摂取の一側面が、文字に即して客観的に実証されるものとの見通しを持っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の未使用額として461,766円が生じた。これは、新たに購入すべき文字関係の資料について、特に高額な中国書籍の購入について検討していたことが大きな原因である。中国にせよ日本にせよ、文字資料は、墓誌や碑文の場合、写真版であることが望ましく、書籍としては大型で高額なことが多いのである。 平成25年度はまず、この文字資料関連の中国書籍の選定を早急に行い、未使用分をこれらの購入にあてる。 また、中国文学からの摂取、特に初学書や幼学書からの摂取を文字使用の位相にまで徹底して考察するために、中国文学関係図書を購入する。なお引き続き、参考となる萬葉集関係図書、及び上代国文学関係図書を購入する。 加えて上代の国文学と中国文学の関係について、専門研究者より専門的知識の供与を受ける。
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