当該年度における主な研究の成果は以下の5点である。 1、ハワイ大学マノア校および和歌山市民図書館移民資料室等において、19世紀後半から20世紀はじめのハワイで発行された邦字紙誌について、文芸作品、文芸関連記事、社説、投稿欄などと、その他の記事および同時期の社会的動向との関連に注意しながら調査を行った。その結果、従来の研究においてはハワイ日系日本語文学の出発期は1910年頃とされていたが、それ以前にも豊かな文学的成果があったことがわかった。これらの内容を論文「「やまと新聞」投稿欄にみるハワイ日系日本語文学の草創期」として発表した。 2、サンフランシスコで発行された代表的邦字紙「新世界」における、文芸作品および文芸関連記事の調査を行い、その結果を論文「異郷に響く歌-日系アメリカ移民が見た〈日本〉」として発表した。 3、サンノゼ日系アメリカ人博物館(Japanese American Museum of San Jose)において資料調査を行い、現地日系人コミュニティの協力を得て日系二世の方々に日本語教育や邦字メディア・芸能等をめぐる体験を中心にインタビューを行った。 4、「太陽」等国内雑誌における景観の視覚表象と言語表象について、その並行性に留意しながら調査を行い、論文「見出される〈帝国日本〉の文化-日清・日露戦争期の作文教育と自然・故郷・古典」にまとめた。 5、作文投稿の習慣が近代的な作者概念の成立とどのように関連したのかという問題について、2013年度日本近代文学会関西支部春季大会で発表し、その内容を「ジャンル・文体の社会的機能と〈作者〉-〈書く読者〉が見た夏目漱石-」と題してまとめた。また、夏目漱石「それから」における北米渡航者の表象について『漱石辞典』(項目名「神戸」)で概説した。
|