研究課題/領域番号 |
23520224
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福田 景道 島根大学, 教育学部, 教授 (20181266)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 歴史物語 / 世継 / 月のゆくへ / 弥世継 / 享受 |
研究概要 |
3年計画の第1年目として,先行研究整序,個別作品研究を中心とし,次年度以降の研究の基盤を整えた。同時に,歴史物語史全体の俯瞰を試みた。主な成果は次の5点にまとめられる。1 全歴史物語研究史を,前史(前近代),黎明期,確立期,発展期,分散期に,試行的に5区分した。2 近世歴史物語の歴史物語としての性格を明らかにした。特に,荒木田麗女の『月のゆくへ』の枠物語構造,政権争奪構図,皇位継承過程などに注目し,歴史物語史に組み入れられることを確認した。3 散佚した歴史物語『弥世継』の実体と享受史を解明し,中世前期から近世後期までの歴史物語受容の一端を明らかにした。4 中世歴史物語の掉尾を飾る『梅松論』に注目して,歴史物語各作品の享受層の変動とそれに基づく作品本文の変化を確認した。5 歴史物語史の展開を4区分した。: (1) 王朝的(本格的)歴史物語の時代。『栄花物語』『大鏡』『今鏡』3作品(「世継三作」と仮称)の時代。詳細,高度,情趣的な長編作品が著作され,王朝貴族を中心に文学的に享受された。『栄花物語』の続編や『大鏡』の「後日物語」もここに属する。(2) 中世前期歴史物語の時代。『水鏡』『秋津島物語』『六代勝事記』『五代帝王物語』などの簡略,平易,知性的な短編作品が成立し,公家とその周辺の階層によって教訓的に享受された。『無名草子』『愚管抄』『唐鏡』などの関連作品もある。(3) 中世後期歴史物語の時代。『梅松論』『保暦間記』『神明鏡』などの簡略,平明,多彩な作品が成立し,享受者層がさらに広がった。『神皇正統記』も成立した。また,『増鏡』によって歴史物語諸作品が系列化され,擬古的歴史物語の源流となった。 (4) 近世歴史物語の時代。『増鏡』の歴史物語観に依拠して,(1)表面的連続的歴史物語享受の流れと,(2)『増鏡』を内実的に承継する『池の藻屑』『月のゆくへ』とに分岐した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画7項目のうち,4項目は計画どおり(または計画以上)に達成されたが,3項目については不十分な点があるので,総合的に「(2)おおむね順調に進展している」と判断した。 計画どおり(または計画以上)と言えるのは,(1)歴史物語の本質を考察する・(2)歴史物語研究史を整序する・(5)『月のゆくへ』の基本的性格を考察する・(7)研究方針を検証する,であり,不十分な点があるのは,(3)各歴史物語の本文研究を行う・(4)『梅松論』を中心とする架橋を析出する・(6)時代背景について考察する,である。ただし,(4)については,研究開始段階で相当な程度に考察していたので,さらなる進展の余地が少なかったためである。(6)はこれのみでまとまった成果はないが,他の項目の中で達成された面がある。一方,(5)については予定以上の成果を学術論文の形で公表している。また,当初計画になかった『弥世継』について(1)に関連して考察し,成果を公表した点も計画以上の成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に従い,各歴史物語の基幹構想と連鎖関係とを明らかにし,「歴史物語全史」を再編成する。特に,従来はほとんど注目されていない中世歴史物語の『神明鏡』『保暦間記』,近世歴史物語の『池の藻屑』『月のゆくへ』を歴史物語の系列に組み入れる。また,周辺的作品群と位置づけている軍記文学・史論文学・説話文学・物語文学諸作品(『保元物語』『平治物語』『平家物語』『承久記』『太平記』『曽我物語』『愚管抄』『神皇正統記』『今昔物語集』『世継物語』『海人の刈藻』『苔の衣』『我身にたどる姫君』など)の歴史物語的性格に注目して研究の全体像を修正・整序する。 以上の成果を集成して歴史物語全史を確定し,付随して,歴史物語研究史を完成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度においては,調査旅費の使用計画を変更し,「物語文学研究関係図書」及び「日本史・思想史・歴史学関係図書」の使用を1部留保して次年度以降に合わせて活用することが有効であると判断したため,残額が生じた。 したがって,次年度(24年度)の研究費は「歴史叙述研究関係図書」「物語文学研究関係図書」「軍記文学研究関係図書」「 説話文学研究関係図書」「近世文学史研究関係図書」に主に使用し,加えて「日本史・思想史・歴史学関係図書」の使用について再計画する。また,「物語文学研究関係図書」は優先的に扱う。 なお,25年度分の「歴史文学研究関係図書」「物語・語り研究関係図書」「文学史・理論関係図書」の使用計画との関連に留意する。
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