研究課題/領域番号 |
23520224
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
福田 景道 島根大学, 教育学部, 教授 (20181266)
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キーワード | 歴史物語 / 世継 / 享受 / 梅松論 / 月のゆくへ / 増鏡 |
研究概要 |
3年計画の第2年目として,前年度に得られた成果を基にして,歴史物語諸作品の享受と伝流の実態,各作品間の関係性についての追究を中心に研究を進めた。主な成果は,以下の5点である。 1 全歴史物語を,以下のようにに6分類した。①文芸的歴史物語(「世継三作」=『栄花物語』『大鏡』『今鏡』),②教訓的歴史物語(「中世歴史物語1」=『水鏡』『秋津島物語』『六代勝事記』『五代帝王物語』),③客観的歴史物語(「中世歴史物語2」=『増鏡』『梅松論』『保暦間記』『神皇正統録』),④復古的歴史物語(「近世歴史物語」「『増鏡』系歴史物語」=『池の藻屑』『月のゆくへ』),⑤変型歴史物語(「源氏系歴史物語」=『神明鏡』『源威集』),⑥擬似的歴史物語(『唐鏡』『無名草子』『宝物集』『愚管抄』『神皇正統記』等)。 2 近世歴史物語を歴史物語史に位置づけた。特に,『池の藻屑』『月のゆくへ』の歴史物語としての条件を抽出した。 3 『神明鏡』や『源威集』を源氏の系譜を基幹とする歴史物語の亜種と見なし、中世歴史物語群から分離した。 4 中世歴史物語の掉尾を飾る『梅松論』に注目して,歴史物語各作品の享受層の変動とそれに基づく作品本文の変化を確認した。 5 前年度に示した歴史物語史の展開を以下のように修正した。/(1) 王朝的(本格的)歴史物語の時代第一期。『栄花物語正編』/(2)王朝的(本格的)歴史物語の時代第二期。『大鏡』『今鏡』『栄花物語続編』/(3) 中世歴史物語の時代第一期。『水鏡』『秋津島物語』『六代勝事記』『五代帝王物語』など。/(4) 中世後期歴史物語の時代第二期。『梅松論』『保暦間記』『神皇正統録』など。『神明鏡』『源威集』はこの時期の亜種。/(5) 近世歴史物語の時代。『池の藻屑』『月のゆくへ』など。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の主要計画5点のうち,4点は計画どおりに達成され、派生的に計画しなかった成果も残せたが、不十分な点があることにより,総合的に「②おおむね順調に進展している」と判断した。 計画どおりと言えるのは,(1)全歴史物語の連鎖関係を解明する・(2)各歴史物語の基幹構想を明らかにする・(4)『月のゆくへ』等の文学史的意義を明らかにする,(5)『神明鏡』の変容過程を探究する,(3)周辺作品の歴史物語的構想を探究する点は不十分となっている。なお、不十分となった一因は、(5)により『神明鏡』『源威集』を新たな一群として独立して捉えるようになったため、周辺作品との境界について再考しなければならなくなったことである。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画に従い,各歴史物語の基幹構想と連鎖関係とを明らかにし,「歴史物語全史」の再編成を完了する。特に,「源流」としての世継三作(『栄花物語』『大鏡』『今鏡』)の本質を追究し、「支流」としての変型歴史物語(源氏系歴史物語)や近世歴史物語(『増鏡』系歴史物語)の位置づけを試みる。また,周辺的作品群(『保元物語』『平治物語』『平家物語』『承久記』『太平記』『曽我物語』『愚管抄』『神皇正統記』『今昔物語集』『世継物語』『海人の刈藻』『苔の衣』『我身にたどる姫君』など)の歴史物語的性格に注目して研究の全体像を修正・整序する。 以上の成果を集成して歴史物語全史を確定し,付随して,歴史物語研究史を完成する。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の図書購入費の一部に平成23年度分の残額を充てた。そのために生じた24年度の残額は、25年度の図書購入費と調査旅費とに充てる。
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