本年度は,初年度中心に行った歴史物語史の時期区分,第2年度の歴史物語諸作品の共時的分類を踏まえ,歴史物語の根幹を貫流する「世継」(皇位継承史構想)を重視して,以下のように全歴史物語の流れを整序した。 (1) 「世継三作」:王朝的歴史物語。規範的,本格的,文芸的性格。『栄花物語』正編・続編,『大鏡』,『今鏡』から成り,それぞれが独自の歴史世界を確保しつつ,三者が相互補完しつつ一つの「世継物語」を形成して後続作品の規範となる。詳細・高雅な傾向がある。 (2) 「中世歴史物語」:教訓的,啓蒙的,実用的性格。『水鏡』,『秋津島物語』,『六代勝事記』,『五代帝王物語』,『梅松論』,『神明鏡』,『保暦間記』,『神皇正統録』など。漢文訓読文を基調とし,簡略・平易なところに特徴がある。なお,この中に「源家の歴史物語」(『神明鏡』,『梅松論』下巻,『源威集』など),「周縁歴史物語」(『唐鏡』『愚管抄』『神皇正統記』『無名草子』)という亜種が含まれる。「中世王朝物語」が前代の王朝物語と連続するところに意味をもつのに反して,「中世歴史物語」は先行の王朝的「世継三作」と断絶する。 (3) 「増鏡系歴史物語」:復古的,擬古的,折衷的性格。『増鏡』,『池の藻屑』,『月のゆくへ』,散逸『弥増鏡』など。(1)と(2)を質的に統合する根拠となる。 関連して,個別の作品研究として,歴史物語史の掉尾『池の藻屑』の基幹構想について探究した。また,付随して歴史物語研究史を整備した。
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