研究課題/領域番号 |
23520227
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
有元 伸子 広島大学, 文学研究科, 教授 (50202768)
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研究分担者 |
遠藤 伸治 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (40185161)
瀬崎 圭二 広島大学, 文学研究科, 准教授 (70413284)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 広島県の女性作家 / 岡田(永代)美知代 / 少女小説 / 田山花袋「蒲団」 |
研究概要 |
本研究は、広島県出身の女性作家・岡田(永代)美知代(1885-1968)について、田山花袋の「蒲団」のモデルとしてのフィルターを排して、一人の女性作家として総合的に評価し直すことを目的とし、著作リストや年譜の作成と、作品の総合的な評価を行う。 美知代の著作の全貌が未解明のため、平成23年度は、すべての研究の基礎となる著作リスト作成を最優先した。まず美知代の生家に開館した府中市上下歴史文化資料館所蔵の著作コピーの書誌事項の確認を行った。さらに、大学院生の補助を得て、国立国会図書館、日本近代文学館、東京大学明治新聞雑誌文庫、お茶の水図書館、大阪府立国際児童文学館等において、文芸雑誌・少年少女雑誌の索引・目次・本文の調査を行った。これらを整理して著作リストを作成し、刊行した。これまで知られていた美知代作品は80作ほどであったが、今回の調査により、単著5冊、共著1冊、雑誌・新聞掲載作品200作、生前未発表原稿10作が判明した。このリストは、美知代研究のみならず、明治・大正期の女性作家研究や少女小説研究、さらに田山花袋研究にも寄与する基礎的な資料として、大いに活用できるものである。 また、生前未発表原稿の一つ「国木田独歩のおのぶさん」の翻刻と解説も刊行した。翻刻に際しては、晩年の美知代と親しかった原博己氏への聞き取りと美知代が在籍していた神戸女学院での調査も行い、国木田独歩の最初の妻・佐々城信子(有島武郎『或る女』のモデル)が神戸女学院に在籍していたこと等が明らかになった。これも研究上の成果である。 研究分担者と共に上下歴史文化資料館を2度訪問して、美知代の文化的背景と地域性の核心を探るとともに、吉川豊子氏など関連する研究者との交流もはかった。分担者のうち、瀬崎圭二は上京前の美知代を取り巻く広島の言論状況を調査し、遠藤伸治は著作リスト作成に際して収集した作品群の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すべての研究の基礎となる著作リストを作成することが、平成23年度の最大の目標であったが、上下歴史文化資料館での基礎作業と各地図書館での調査により、著作リストを作成し、刊行することができた。このリスト作成によって、岡田(永代)美知代が従来知られている以上に多くの作品を残していることが判明した。 また、生前未発表原稿のうち一作を翻刻刊行することもでき、明治・大正期の文壇や女学生の様相などが明らかになった。さらに、上京前の美知代を取り巻いていた環境の分析や美知代の著作の解読も進行中である。 美知代の著作の購入や複写を行い、索引類や基礎的な文献についても予定通りに購入を進めた。 「おおむね順調に進展している」との評価はこのためである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、平成24年度は、前年度に引き続いて著作リストの作成・整備を継続するとともに、年譜と評伝の作成にとりかかる予定であった。しかし、昨年度に調査により著作リストを作成してみると、事前の想定以上に美知代が多くの小説や少女小説作品を残していることが判明した。なかには花袋の『蒲団』成立にも関わると思われる小説もあるし、同時期の家庭やジェンダー・セクシュアリティを探るために適した作品もある。大正期に書かれた多くの少女小説はほとんど研究がなされていない。また、生前未発表の原稿にも明治・大正期の文壇を知るための重要な記述が含まれていることがわかった。 したがって、関係者のインタビュー実施などによる評伝の整備にも著手するが、それより以上に、(1)作品の収集・整理・分析による美知代作品の価値付けや先行研究とのリンクづけ、(2)美知代の執筆環境をとりまくメディア状況の解明、(3)上下歴史文化資料館所蔵の未発表原稿の翻刻 などの作業に傾注したい。 研究分担者のうち、瀬崎圭二は引き続き美知代を取り巻いていたメディア環境についての調査を行い、遠藤伸治はさらに作品分析を進めて「家庭」をテーマに美知代作品のもつ現在的意義を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
著作リストの整備や美知代を取り巻くメディア環境についての調査、関係者へのインタビューのために旅費を計上している。 物品費としては、書籍や文献複写代を計上した。平成23年度は美知代の著書の購入や複写に務めたが、うち1冊が古書店や図書館等にも蔵しておらず未入手であり、これが古書店に出たら購入したい。さらに、分析を進めるために、少女小説や明治・大正期のジェンダー・セクシュアリティ等に関する基礎的な文献を購入していく。 謝金は、文献調査や複写資料の整理等の補助作業に際して、大学院生に支払う予定である。
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