研究課題/領域番号 |
23520227
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
有元 伸子 広島大学, 文学研究科, 教授 (50202768)
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研究分担者 |
遠藤 伸治 県立広島大学, 生命環境学部, 教授 (40185161)
瀬崎 圭二 広島大学, 文学研究科, 准教授 (70413284)
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キーワード | 岡田(永代)美知代 / 広島県の女性作家 / 地域性 / テクスチュアル・ハラスメント / 田山花袋「蒲団」 |
研究概要 |
本研究は、広島県出身の女性作家・岡田(永代)美知代(1885-1968)について、田山花袋の「蒲団」のモデルとしてのフィルターを排して、一人の女性作家として総合的に評価し直すことを目的とし、著作リストや年譜の作成と、作品の総合的な評価を行うものである。 昨年度の著作調査の実績から、本年度も美知代の著作の全貌を明らかにすることを優先して、各地図書館等で調査を行った。年度後半からは、調査対象の範囲を雑誌から新聞に広げ、国立国会図書館や日本新聞博物館ライブラリーにおいて調査した。『中央新聞』や『富山日報』に美知代が作品を発表していることが確認でき、著作リストを改訂した。『中央新聞』掲載の推定・美知代作品のうち一作品について資料紹介を行うとともに、著作権継承者の許可を得て、広島大学学術情報リポジトリに、作品の新聞版面をPDFファイルで登録した。当該作品は、田山花袋「縁」との関連でも見逃せないものである。 作成した美知代の著作リストを利用し、田山花袋と岡田(永代)美知代の師弟の攻防の様相を、作者と地域性の二つの側面から明らかにし、論文化した。うち一つは『日本近代文学』に掲載が確定している。 また、田山花袋記念文学館(群馬県館林市)において、田山花袋と岡田美知代の間で交わされた書簡類や美知代の生前未発表作品の調査を行なった。『「蒲団」をめぐる書簡集』(館林市)の翻刻に修正すべき点が発見されたので、今後、報告したい。さらに、上下歴史文化資料館(広島県府中市)において美知代の文化的背景と地域性の核心を探るとともに、美知代の生前未発表小説の調査も行い、館との連携を強化した。分担者のうち、瀬崎圭二は上京前の美知代を取り巻く広島の言論状況を調査し、遠藤伸治は著作リスト作成に際して収集した作品群の分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
美知代の著作の全貌が未解明のため、初年度の平成23年度は、すべての研究の基礎となる著作リスト作成を最優先したが、その結果、これまで80作品しか知られていなかった美知代の著作が、200作近くあることが判明した。このため、本年度も年譜作成よりも著作リストの充実を優先することとし、引き続き、各地図書館等で調査を行い、作品の発掘と、本人が保存していて作品現物のみある作品の書誌事項の解明に努めた。 また、美知代作品と師の花袋との関係に関して、研究論文と口頭発表を行ない、従来の花袋研究とは異なった成果を出すことができた。従来知られていなかった美知代の新聞掲載作品についても紹介し、著作権継承者の許しを得て、インターネット上で作品本文を掲載する道筋をつけた。 各地での文献調査や、美知代・花袋に関連する文学館・資料館での調査も順調に行った。関連する文献や索引類の購入や複写を行い、A3サイズのスキャナ等の必要な機器も予定通り購入を進めた。 「おおむね順調に進展している」との評価はこのためである。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、前年度に引き続いて著作リストの作成・整備を継続するとともに、その成果を生かして、作品紹介と分析に入り、花袋との関係を明らかにした。本年度も引き続き、著作調査と資料紹介、作品分析に努めて、美知代の著作の特色を明らかにしたい。 さらに、関係者のインタビュー実施を行ない、美知代の年譜を埋める作業も行なう。 平成25年度は本研究の最終年度であるが、秋には美知代の生家を改築して開館した府中市上下歴史文化資料館の開館10周年記念行事が開催される。申請者はこの記念イベントにおいて講演を依頼されており、研究成果を一般に公開するとともに、資料館の展示等にも役立てたい。 また、現在は美知代の作品を手軽に読むことができる環境になく、読みたいという声を仄聞している。美知代作品の普及のため、著作権継承者と交渉して、インターネット上での著作公開の可能性をさぐり、可能であれば、大学院生などの協力を得て、作品の電子化なども試みていく予定である。 研究分担者のうち、瀬崎圭二は引き続き美知代を取り巻いていたメディア環境についての調査を行い、遠藤伸治はさらに作品分析を進めて「家庭」をテーマに美知代作品のもつ現在的意義を明らかにしていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
著作リストの整備や美知代を取り巻くメディア環境についての調査、関係者へのインタビューのために旅費を計上している。 物品費としては、書籍や文献複写代を計上した。平成24年度は、分析を進めるための新聞関係、少女小説、明治・大正期のジェンダー・セクシュアリティに関する文献を購入していく。 謝金は、文献調査や複写資料の整理等の補助作業に際して、大学院生に支払う予定である。 さらに成果をまとめるための、印刷費等を予定している。
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