本年度は、第一に、老荘思想の影響もある中国の善書『太上感応篇』受容史の一端として、近世前期の儒学者・南部草寿の『太上感応篇俗解』(延宝8年刊)を取りあげ、彼の伝記および思想の特色についての考察を発表した。その結果、草寿の思想が従来考えられてきたような純然たる朱子学ではないこと、善書的な三教一致観や教化意識をもっていたことが判明した。 第二に、前年度に行った江戸中期の仮名教訓本『従好談』の内容、およびその著者についての口頭発表を論文化した。『従好談』の筆者は、従来『田舎荘子』その他の著述がある佚斎樗山かとされてきたが、館林市立第一資料館に所蔵される「岩田家文書」の精査により、秋元藩家老・岩田彦助の著述とみて間違いないこと、その思想は熊沢蕃山の影響を受けていること、などを考察した。また、本書の思想史上における意義に鑑みて、その本文が広く知られ、多くの研究者に利用されるよう、内容の全文翻刻を行った(2014年6月公表予定)。 第三に、前年度に引き続き、山岡元隣の仮名草子『宝蔵』巻一後半についての詳細な注釈を公表した。この作業のなかで、元隣の老荘観が本書の基軸になっていること、そしてそれが俳諧意識とつながっていることを確認した。また、同書巻二前半についての注釈も行った(2014年7月公表予定)。 第四に、本研究の総まとめに代わるものとして、日本における老荘思想受容の概要を執筆した。通史的なものではあるが、江戸時代を中心として取りあげ、本研究のなかで考察した林注の受容、俳諧寓言説、善書との関連などの知見を盛り込んだ(2014年5月公表予定)。
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