研究課題/領域番号 |
23520231
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研究機関 | 二松學舍大學 |
研究代表者 |
稲田 篤信 二松學舍大學, 文学部, 教授 (20168404)
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キーワード | 世説新語補 / 明清漢籍 / 李卓吾 / 石島筑波 / 中井履軒 / 那波魯堂 / 上田秋成 / 大田南畝 |
研究概要 |
本研究は近世日本における『世説新語補』受容に関する研究であるが、本年度も前年度同様、中国明清の間に出版された漢籍、及びわが国において刊行された二種の和刻本(元禄版本・安永版本)の伝本の調査研究を基礎研究に位置づけている。本年度、国内の国会図書館、大阪府立中之島図書館、大阪大学附属図書館などにおいて、調査を実施した。また、中国国家図書館(北京市)及び台湾の国家図書館・故宮博物院図書文献館(いずれも台北市)において海外調査を実施した。披見調査した文献で、特色のあるもは、以下の通りである。 国内の場合。大阪大学附属図書館懐徳堂文庫の中井履軒雕題本は、履軒が本文に詳細な書き込みを行っているいわゆる雕題本のシリーズの一冊である。資料収集の上、履軒注について実見調査した。『世説新語補』注釈書関連のものとしては、大阪府中之島図書館蔵本の『世説逸』を調査した。 海外の場合は、中国国家図書館において明万暦刊本、台湾の国家図書館において明万暦刊本と安永版和刻本、故宮博物院図書文献館において元禄版和刻本を調査した。いずれも、国内では得られない新知見が得られた。 「和刻本『世説新語補』の書入三種」(「日本漢文学研究」8号)において、和刻本李卓吾批点『世説新語補』の伝本のうち、那波魯堂、石島筑波、秋山玉山、服部南郭、太宰春台、千葉芸閣らによる三種の書き入れ本を紹介して、それぞれ特質を略述した。発表誌は二松学舎大学日本漢文教育研究プログラムの一環として刊行されているものである。 和刻本、特に元禄版の底本に想定される明版の李卓吾批点本は今のところ不明であるが、本研究を通して、和刻本制作は必ずしも一本の漢籍の厳密な復刻という風には考えられていないのではないか、というのが現時点の感触である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内外の調査の成果として、明版李卓吾批点本については、新たに焦竑序のある一本を確認した。また、和刻本については、安永本の後刷り本と推定される石田治兵衛刊本の存在を確認した。邦人書き入れ本については、平賀中南の『世説新語補索解』の注を写し取った一本を確認した。これらは「日本漢文学研究」8号に反映することは出来なかったが、次の機会に考察の成果を公表したい。 国内の和刻本伝本の調査で、予定通り進まなかったものがいくつかあるが、成果としては以上のように着実に調査の実をあげており、おおむね良好であったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
『世説新語補』の明清漢籍及び元禄版・安永版和刻本について、国内外の伝本調査を継続し、資料収集を行う。海外の場合は、台湾の台湾大学中央図書館、故宮博物院図書文献館(いずれも台北市)の調査を予定している。そのほか、可能であれば、政情不安その他の理由によって一部延期した中国所蔵館(北京市・首都図書館など)を予定している。 国内の場合は、お茶の水図書館成簣堂文庫(東京)や金沢市立玉川図書館、天理図書館(天理市)など、『世説新語補』及び古世説の収集に特色のある公私文庫図書館を予定している。大阪大学附属図書館懐徳堂文庫・中井履軒雕題本は、尾藤二洲との交流を視野に入れると、興味深い問題が予想され、継続して調査を実施したい。履軒書き入れ本について考察の成果を論文にして公表するつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
一、日本国内、及び海外における『世説新語』及び『世説新語補』関連の漢籍及び準漢籍の調査研究旅費、資料収集経費を予定している。 一、『世説新語補』に関係する近世日本の学者・文人(石島筑波ほかの徂徠学派、那波魯堂、山埼允明、秋山玉山、中井履軒、尾藤二洲、大田南畝など)について、関連資料の収集に必要な経費を予定している。特に尾藤二洲については、伝記資料を含めてた調査を行いたい。 一、明清漢籍受容史に関わる書籍文献資料の購入収集に必要な経費を予定している。
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