研究課題/領域番号 |
23520234
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
母利 司朗 京都府立大学, 文学部, 教授 (10174369)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 筆工 / 版本 / 版下 / 江戸版 / 置散子 / 御家流 |
研究概要 |
本年度においては、近世前期の江戸で主に仮名草子を中心に出版された江戸版と称される独特の様式を備えた版本群の版下を担当した筆工像に注目した。具体的には、その版下の様式や文字の書風が、従来指摘されているように本当に「独特」や「特有」のものであるか、京都の版本版下の特徴と比較してどのような性格をもっているのかについて、京都の草子屋・正本屋の版下様式・書風と、江戸版を出版した主要版元である山本九左衛門・松会・鱗形屋・本問屋の版下様式・書風を比較することによって検証した。 その結果、以下のことが判明した。1 山本九左衛門の出版物の版下様式と文字の書風は、同族である京都の山本九兵衛の出版した浄瑠璃正本はもちろん、八文字屋八左衛門、鶴屋喜右衛門の出版した浄瑠璃正本とも酷似しており、京都の浄瑠璃正本の作り方がそのまま持ち込まれたものであること。2 松会・鱗形屋・本問屋の版下様式・書風は、行数を十数行とすること、一行あたりの字数を極度に多くすること、においては上方の浄瑠璃正本の様式を踏襲しているが、その書風は、抑揚をつけ、はね・はらい・折をしっかりと表現している点において、上方の正本類とは明らかに異なる書風となっていること。3 ただしその書風は、当時もっともひろまっていたいわゆる「御家流」あるいは「尊円流」といわれる流派の書風から大きくはみでるものではないと思われること。その根拠として、尊純流の書家でいわゆる御家流の書風をもっていたと思われる江戸の投閑堂隠岐置散子の書風が、江戸版の、特に漢字の書風と似通うものであること。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画においては、江戸の御家流の書家隠岐置散子が江戸の出版物の版下を担当していた筆工だったのではないか、という想定のもと、置散子の著作物の調査・収集に力点をおいた。しかし実際に調査を進めるうち、むしろ置散子個人にスポットをあてるよりも、置散子が属する江戸の書家全体の書風に注目し、京都の出版物とは異なる版下書風であると指摘されている江戸版の版下書風との関わりを考える方が、筆工の文化的階層を考えるには有効であると判断し、計画の変更をおこなった。 結果的には、「研究実績の概要」に記したような比較的豊かな考察結果を得ることができ、次年度へのスムーズな進展がはかられることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度においては、置散子をはじめとした江戸の書家たちの書跡を可能なかぎり調査・収集し、江戸の御家流の書家たちおよびその門流たちが江戸版の版下筆工をつとめていた蓋然性を実証していきたい。これらの資料はWEB上ではあまり載せられておらず、実際の所蔵者のもとでの調査および写真収集が必要となろう。 またこれらの書跡手本は、比較的古書籍商やネットオークションに出ることが多いので、可能なかぎり原本の収集につとめたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の使用予定額が次年度に一部繰り越されることとなった原因は、江戸版の版下写真を集めるのにさいして実際の旅行を伴う調査・収集をおこなう必要が生じず、すべてWEB上(国会図書館・早稲田大学図書館など)における調査・収集でことたりたりた点が大きい。これらの資料はWEB上ではあまり載せられておらず、実際の所蔵者のもとでの調査および写真収集が必要となろう。また様々な古書商においてこれらの筆蹟が販売される可能性があり、随時資料の収集にもつとめていきたい。
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