近世前期に江戸で出版された独特の造本様式をもつ出版物は「江戸版」と呼ばれる。その挿絵の版下については菱川師宣に代表される江戸の絵師が関わったとされるが、本文の版下については不明である。 本研究では、まず「江戸版」がいかに「独特」「独自」であるかを吟味したが、結果的に、江戸版の本文版下は、上方浄瑠璃本の様式を基本的に踏襲したものであることがわかった。また、上方版と比べ自由闊達、時には厳しいまでに鋭角的な文字の書風を持つものも少なくないが、それらも当時の標準的な書流であった「御家流」の範囲内におさまるものであった。これらに筆工として従事した者たちは、武家の浪人たちであった可能性がある。
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