浮世草子作者月尋堂の多様な文学活動、特に和学者としての活動を中心に明らかにするべく、それらの関連資料を収集するとともに、その伝本・諸本調査や翻刻作業を行い、以下の研究成果を公刊した。最終年度においては有職故実書『官職田舎辨疑』の調査研究をまとめることに注力した。 1、月尋堂の歌学書『和歌俗説辨』(正徳2年刊)の翻刻・解題を行い、そこに展開される歌学的言説に関して、その知識の背景や典拠を明らかにし、月尋堂の和学者としての歌学的党派意識を考察した。(『京都府立大学学術報告・人文64 2012年12月) 2、月尋堂の有職故実書『官職田舎辨疑』(宝永8年刊)の翻刻・解題を行い、そこに記される有職故実の知識・教養の典拠について調査し、『官職備考』や『職原抄支流』『職原鈔参考』など多様な典拠使用が確認された。さらに同書が『官位俗訓』『官位訓』などと改題され、また著者名も貝原益軒などに偽造されながらも幕末まで出版され、近世において一定の評価とニーズを長く保ち続けていたことが明らかとなった。 これらの有職故実書や歌学書が月尋堂の著作であることは従来知られておらず、研究代表者のこれまでの研究によって初めて明らかにされたものであるが、本研究によってそれらの内容が具体的に明示されることになった。(『京都府立大学学術報告・人文65 2013年12月) 本研究は、浮世草子作者月尋堂の文学活動を整備する上での基礎的研究となるのみならず、元禄期から宝永・正徳期へと移り変わる転換期の浮世草子作者の文学的環境(知識・人脈・出版など)を考察する上でも有益なヒントを与えることとなろう。
|