室町時代以前に成立した往来物の研究を行った。とくに素眼編『新札往来』と、一条兼良編『尺素往来』の文献批判を完成させた。前者は群馬大学附属図書館蔵新田文庫本を紹介した。後者は全国で30本に及ぶ写本、および2種の版本の書誌を調査した。その結果テキストは2類4系統に分類される。古態をとどめるのは内閣文庫蔵橋本公夏筆本ほか三本である。これをもとに成立年代と執筆動機を考察した。その結果、応永30年(1423)頃、将軍足利義持・義量父子を意識して執筆されたことが明らかになった。この成果は論文として刊行した。今後、室町時代の政治史・文化史の研究に寄与すると思われる。
|