『平家物語』には多くの異本があり、その本文は流動しているが、例外的に覚一本(語り本系のうちの一方系の一種)は、その奥書から〈語り〉の定本として固定的に捉えられ、権威性が説かれてきた。しかし、当研究により、覚一本の本文も、規模は小さいものの流動していることが明らかになった。しかも、他の一方系の本文を参照して手を加えている。覚一本の本文の不完全さに、改めて注目すべきである。覚一本本文の権威性・固定性は再考が必要となる。また、覚一本を溯る形態は、覚一本を下るとされてきた一方系本文にも見いだされる。覚一本を含めて一方系諸本を等価に並立的に評価し、交互に柔軟に影響しあっていたと考えるべきである。
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