研究課題/領域番号 |
23520243
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研究機関 | 駒澤大学 |
研究代表者 |
近衞 典子 駒澤大学, 文学部, 教授 (20178297)
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研究分担者 |
川上 陽介 富山県立大学, 工学部, 准教授 (00574451)
田中 則雄 島根大学, 法文学部, 教授 (00252891)
福田 安典 日本女子大学, 文学部, 教授 (40243141)
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キーワード | 日本近世文学 / 中国白話 / 陰隲録 / 国際研究者交流 / 中国 |
研究概要 |
本年度は当該研究2年目に当たるので、各々が従来の研究活動を継続する一方、これまで各々が行ってきた研究成果をひとまず取りまとめ、各研究者の研究成果を公表すること、及びそこから浮上した問題意識を共有し今後の課題を明確にすることを目的に、研究活動を行った。 具体的には、申英蘭氏の協力を得て、平成24(2012)年8月27日~28日に中国ハルピン工業大学(代表、祝玉深氏)において「日本文学の中の外国文学、外国文学としての日本文学」と題してワークショップを開催した。これは我々のこれまでの研究成果を中国の日本文学研究者及び学生に対して問い掛け、相互に理解を深め合う試みである。ワークショップ実施においては科研費代表者、分担者、研究協力者のみならず、広く参加者を募り、また中国側研究者にも発表を求めた。 27日は第一部/公開シンポジウム、第二部/研究発表・交流会を行い、28日は中国側の案内によるハルピン市内文学踏査を行った。ここでは主に代表者、分担者の関わったシンポジウムについて報告する。発表は「陰隲文享受の一様相―高崎庚申寺刊『庚申祭式』を読む―」福田安典、「大江文坡の教訓思想と文芸」田中則雄、「『雨月物語』と善書」近衞典子、「『陰隲録』とその周辺」川上陽介の4本(司会・木越治、コメンテーター・入口敦志)。第二部ではA・B2会場に分かれて、11名の研究発表及び質疑応答が行われた。 ワークショップ終了後、参加者の一人David Bogdan氏によるアンケートを利用した検証がなされた。日本側、中国側双方の参加者を対象に行われたこのアンケート結果の分析が『言語文化研究』32巻1-2号(松山大学、2012年9月)に掲載されている。これによれば、今回の試みは、言語の上での多少の困難はあったが、概ね当初の目的を達し、有意義な交流ができたと結論してよいと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の最も大きな成果は、中国におけるワークショップの開催である。研究計画当初から2年目にワークショップを行うことは企画していたが、中国における開催校の選定に当たっては、かなりの困難が伴った。しかしながら研究協力者の申英蘭氏の尽力により、幸いハルピン工業大学(代表・祝玉深氏)を会場として実施することが決定した。 8月27日~28日の日程で行われたワークショップは「日本文学の中の外国文学、外国文学としての日本文学」というテーマのもと、1日目は日本・中国双方の研究者による研究発表が行われ、日本近世期の中国白話受容に関わる日中交流を中心に、広く日中文化交流に関わる意見交換が行われ、大変有意義なワークショップとなった。2日目は中国側の学生の案内によるハルピン市内文学踏査を実施し、日本近世・近代の文化に影響を与えたと思われる中国の旧跡を訪問、また日本語・日本文学を学ぶ中国人学生との交流を深めることもできたことにも大きな意義があった。 今回、ワークショップという形態での交流を図ったが、日本側の一方的な情報発信に終わるのではないかという懸念があった。しかしこれについては、ワークショップ後に行ったアンケート調査結果を分析したBogdan氏の報告書によれば、おおむね中国側の研究者・学生にも参加の意義を感じてもらうことができ、また我々日本人研究者にとっても、発信することの難しさと共にその重要性、相手の理解を助ける発表方法の改善点など多くの課題を自覚することができ、大変有意義であったと考える。 ワークショップ開催以外にも、メンバーは各々自らの研究テーマに取組み成果を挙げた。ワークショップは言うなればその中間発表であり、この場での発表を通じてお互いの成果を理解し、会場での質疑応答やコメンテーターのコメントを通して個々のテーマに底流する大きなテーマを共有することができたことが、大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
過去2年間の研究成果を受けて、平成25年度は最終年度として、研究全体の総括を行う予定である。 まず、平成24年度に実施したワークショップ後に行った参加者アンケートの結果をDavid Bogdan氏が検証した報告書「Using Literature in Foreign Language Learning:A Case Study with Chinese JFL Students」(『松山大学言語文化研究』第32巻第1-2号、2012年9月)を日本国内の各研究者・機関、及び中国ハルピン大学に送付して、研究成果を広く公表する。 さらに、平成25年6月1日・2日に行われる日本近世文学会春季大会(会場・東京学芸大学)では、研究代表者である近衞典子が「磯良の襲撃とまじない―『雨月物語』の当代性―」と題して研究発表を行う予定である。『雨月物語』は周知のように中国白話小説の多大な影響を受けている作品であるが、中国ハルピンのワークショップにおける成果を踏まえ、更にその後の研究成果も盛り込んで、従来指摘されることのなかった『雨月物語』「吉備津の釜」における当代的な中国文化の流入の様相を、具体例を挙げて検証するものである。また参加者の一人、木越俊介氏によって『上方文藝研究』第10号(平成25年6月発行予定)「上方文藝への招待」のコーナーに、ハルピンワークショップの体験記が寄稿される予定である。 以上のような形でこれまでの研究成果を広く世に問う一方、更に発展的な研究テーマを見出すべく、研究会を行う予定である。ワークショップをお引き受けいただいたハルピン工業大学の代表者、祝玉深氏が平成25年度秋、中国政府の派遣により大阪大学における1年間の研修のため来日予定である。そこで祝氏を迎え、ワークショップ参加者を中心に広く呼び掛けて、研究会を開催したいと考えている。 以上のような形で、研究を総括する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の使用計画としては、大きく三点にまとめられる。 まず第一に、従来の研究方法を継続し、日本近世期の中国白話受容に関わる文献資料を調査・収集する。具体的には図書の購入、紙焼き写真やコピー等での資料入手、資料の写真撮影などで資料を幅広く収集し、必要に応じて実地踏査も行う。これら資料に関する研究費支出を予定している。 第二に、これまでの研究成果をまとめ、広く世に公表する目的のために研究費を使用する。研究成果の周知を図る方法は、具体的には次の通りである。(1)上記「今後の研究の推進方策」で述べたように、David Bogdan氏によりワークショップの分析が行われ、その報告書が作成された。この報告書を、日本国内の各研究者・研究機関に発送する。またワークショップで多大なる協力を得た中国ハルピン工業大学(代表者・祝玉深氏)にも送付し、中国においても配付していただくよう依頼する。(2)木越俊介氏により、『上方文藝研究』第10号(平成25年6月発行予定)にワークショップの体験記が掲載される予定である。(3)平成25年6月1日・2日に開催される日本近世文学会春季大会(会場・東京学芸大学)において、研究代表者・近衞典子が「磯良の襲撃とまじない―『雨月物語』の当代性―」と題する研究発表を行う予定である。以上のように、様々な方法で本科研の研究成果を広く公表する予定であり、そのために必要な郵送費、物品費等を支出する。 第三に、本科研でのワークショップをきっかけとして、ハルピン工業大学の祝玉深氏が平成25年秋から1年間、大阪大学での研修のために来日されることとなった。そこで祝氏を迎えて、科研メンバーそれぞれの研究テーマを深め発展させ、また3年間の科研の研究を総括する目的で、研究会を計画している。この研究会開催のために旅費、物品費等を使用する予定である。 以上、適正に予算を執行する予定である。
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