研究課題/領域番号 |
23520251
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
陣野 英則 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40339627)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | 平安文学 / 源氏物語 / 古注釈 / 受容 |
研究概要 |
本研究は、『源氏物語』をはじめとする平安文学の古注釈に関する基礎的研究を深化させ、特に未翻刻の古注釈書を紹介・翻刻するとともに、それらを含む多様な受容の諸相をとらえ、古典文学及び古典学の特質を明らかにすることを目的としている。 平成23年度においては、前年度から準備を進めていた論集『平安文学の古注釈と受容 第三集』(緑川真知子氏との共編)を刊行し、特に欧米における『源氏物語』などの古典の受容と変容、及び『枕草子』の受容の問題を特集として扱うことができた。 次いで、古注釈書の調査・翻刻のうち『長珊聞書』(第一分冊に相当する箇所)の翻刻作業に関しては、予定どおり完了させることがかなわなかったものの、第一段階の翻刻(厳密な校閲前の草稿)はほぼまとまってきた。また、江戸時代の未紹介資料である『源氏物語注』については、継続して若手研究者たちとともに丁寧な翻刻作業を進め、全体の7割程度まで翻刻を終えている。そのほか、『伊勢物語』の古注釈書のうち一条兼良の『伊勢物語愚見抄』に関して考察をまとめ、論文を公表することができた。 一方、ベルリン国立図書館蔵『源氏物語』写本、特にその「夕顔」巻の抹消された異文については、かなり独自の文言を含んでいる可能性があることから非常に貴重であろうと考え、現地での調査を実施した。時間が足りなかったため、「夕顔」巻全体の調査を終えることはできなかったが、詳細に報告するに値する内容をもっていることは確認できた。 さらに、当初は具体的に計画していたわけではなかったが、多様な受容の一例として近代の川端康成における『源氏物語』受容について検討を進め、その長篇小説『山の音』と『源氏物語』「宇治十帖」との深い関係について論文をまとめることができた(刊行は平成24年5月の予定)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成23年度の計画のうち、論集『平安文学の古注釈と受容 第三集』の編纂と刊行、『源氏物語注』(早稲田大学図書館蔵)の翻刻作業、『伊勢物語』の古注釈(一条兼良の『伊勢物語愚見抄』)についての論文執筆などは予定どおりに達成できた。また、近代の受容の問題として川端康成作品と『源氏物語』との関係について考察を深めることができたが、これは当初の計画以上の進展といえる。 一方で、『長珊聞書』(第一分冊に相当する箇所)の翻刻作業については、草稿段階にとどまり、そのチェックから入稿へと進むことはできなかった。これは、ひとえに分量が非常に多いことと、他の研究にかかる時間が予想以上であったことなどによる。 また、ベルリン国立図書館蔵『源氏物語』写本、特にその「夕顔」巻の抹消された異文の調査については、計画どおり出張して、3日間にわたり集中して調査したものの、同図書館のルールで貴重書扱いの当該写本の閲覧が午前9時から午後3時までに限られていたこと、また抹消された本文を判読するのが想像以上に困難であったことなどにより、予定よりもかなり時間を要してしまった。結果、「夕顔」巻の全体を調べ尽くすことはできなかった(全体の6割程度の調査で中断した)。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については、平成23年度中には予定どおり進められなかった『長珊聞書』(第一分冊に相当する箇所)の翻刻(特にその厳密なチェック)を研究協力者ともよく連携して完成させ、第一分冊の公刊にまで至るよう、最優先で進めることにしたい。あわせて、『源氏物語注』(早稲田大学図書館蔵)の翻刻はこれまでどおり進めて、年度内に全体の翻刻をまとめられるように努める所存である。 一方、ベルリン国立図書館蔵『源氏物語』の「夕顔」巻の独自異文調査については、もう一度ベルリンにて調査の機会をもち、いずれその結果を論文にまとめることとしたい。 また、古典学と『伊勢物語』古注釈の特集などを柱とする『平安文学の古注釈と受容 第四集』の企画・編集を進める。 さらに、前年度からの継続で、川端康成作品における『源氏物語』あるいは平安後期物語の受容について考察を進める。当面は、『みづうみ』に取り組む予定。
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次年度の研究費の使用計画 |
『源氏物語』の中世及び近世の古注釈などに関わる研究書と資料、及び『伊勢物語』関係の研究書、さらには川端康成及び古典文学摂取に積極的であった近代作家たちに関する研究書などの購入に充てる。 一方、再度のベルリン出張でベルリン国立図書館蔵『源氏物語』の「夕顔」巻の調査を完了させるために、その出張旅費に充てる。 また、翻刻作業、及びそのとりまとめなどの補助的業務を担ってもらうべく、研究補助員(RA)1名ないしは2名を雇用することになろう。
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