研究課題/領域番号 |
23520251
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
陣野 英則 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (40339627)
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キーワード | 古注釈 / 源氏物語 / 長珊聞書 / 葬送儀礼 / ふみ / 文 / 川端康成 / 山の音 |
研究概要 |
平成24年度は、室町時代末期に成立した未翻刻の注釈書『長珊聞書』(陽明文庫蔵)の「桐壺」から「須磨」巻まで、すなわち全体の4分の1の翻刻をひととおり完成させ、研究協力者とともに相互のチェックを行った上で、平成24年9月、及び平成25年3月の2回にわたり陽明文庫にて不審な点、もしくは不明の点をあきらかにすべく、直接写本にあたってチェックした。この翻刻については、今後組版、校正などを経て平成25年度中には武蔵野書院より刊行される予定である。 また、『源氏物語』の古注釈に関わる研究としては、『源氏物語』などの物語文学における帝(及び上皇)の葬送儀礼のあり方について、史料などに照らすとともに、中世から現代までの諸注釈を参看して検討した。とりわけ、物語本文中ではきわめて特異な「御国忌」という言葉をめぐって物語と歴史との関わりについて考察した。 さらに、『源氏物語』本文のあり方に関わる研究としては、「ふみ」という言葉と「文(ブン)」という漢語の概念との関係について考える機会を得、口頭発表をふまえ年度末には論文をまとめることとなった。今回は「少女」巻を中心に検討したが、その前提として『源氏物語』五十四帖全体で、諸写本の「ふみ」という単語の表記がどのようになっているのか、またそこにどのような本文異同があるのかということをも綿密に確認し、固定的、安定的ではないことをとらえた。 一方、近現代における『源氏物語』受容に関しても研究をすすめた。本年度は、川端康成の『山の音』と『源氏物語』「宇治十帖」との関係について、これまでに考察してきたことをふまえ、論文にまとめることができた。 これらが研究課題に対応する研究内容であるが、ほかに関連する研究として、『源氏物語』の和歌の特徴に関する研究、『源氏物語』の〈書く〉ことに関わる研究、『堤中納言物語』「はいずみ」の研究なども論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『長珊聞書』の翻刻については、しばらく前から取り組んできたものの、分量があまりに多く、また初めての翻刻ということで不審点も多々あって、前年度まではなかなか進められなかったのであるが、平成24年度は研究協力者とも連絡を密にとり、うちあわせの機会を得た上で、二度にわたる陽明文庫での調査も実施することができた。なお、当初の予定よりは遅れ気味ではあるものの、いよいよ翻刻書刊行の目処がついたといえる。 一方、『伊勢物語』の享受・受容に関する特集をふくむ論集を企画していたが、こちらの方については予定どおり進めることができなかった。とはいえ、同論集に掲載予定の早稲田大学蔵『源氏物語注』という未紹介資料の翻刻作業は、定例の研究会を予定どおり開催するなかで、ほぼ完成に近いところまで進めることができたので、まずまずの進展があったといえるだろう。 その他の『源氏物語』関係の研究、また近現代の受容に関する研究は論文等の成果をまとめることができたので、順調に進んだといえるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず『長珊聞書』の「須磨」巻まで(全体の4分の1)の翻刻書を年度内に刊行させる。さらに併行して「明石」巻以降の翻刻にも取り組む。 また『伊勢物語』の享受・受容に関する特集と、未紹介の注釈書である早稲田大学図書館蔵『源氏物語注』の翻刻を含む論集『平安文学の古注釈と受容 第四集』の編集などに取り組む。 これらの二つを大きな柱としつつ、新たに『源氏物語』の古注釈書でまだ充分に知られていないものなどを探究してゆきたい。具体的には、早稲田大学図書館の九曜文庫本の中から精密に調査するにふさわしい対象を吟味・選択した上で、研究協力者たちが主要メンバーとなっている古注釈の研究会でとりあげてゆくこととする。 一方、前年度にひきつづき、川端康成の『源氏物語』(ならびに平安時代文学等)の受容の問題にも取り組む。当面の予定としては、川端の『みづうみ』における平安時代物語文学受容の問題をとりあげるつもりである。
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次年度の研究費の使用計画 |
まず、陽明文庫での『長珊聞書』の調査に関わる出張費(これについては、これまでと同様、研究協力者の分をふくむ)が次年度も不可欠である。 また、翻刻作業の補助業務、ならびに翻刻書及び論集刊行にむけての編集業務に関わってもらう研究補助員(RA)1名の謝金を要する。月に20時間程度(時給2,000円で月額40,000円)の業務を予定している。 次年度については、以上の二つが主要な費目となる予定である。また、新刊の古注釈書翻刻、本文の影印、関係する研究書等々、適宜必要に応じて購入することにもなろう。
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