平成26年度は、前年度までに『長珊聞書』(陽明文庫蔵、53巻、約3100丁)の4分の1(4分冊で刊行予定のうちの第1分冊に相当)の翻刻を終えたことから、入稿前のチェックと一部の入稿、校正を進めた。 本研究課題の柱となる『長珊聞書』の翻刻とその公刊は、中世の重要な未翻刻資料ゆえ、『源氏物語』研究においてかなり重要な意義を有するだろう。ただし、翻刻では何より正確さが大事であること、また昨年度後半に全丁の新規撮影を依頼してカラーのデジタル画像を入手するまでの間は、影印資料の見にくさゆえ作業に想像以上の時間を要してしまったことなどから、最終年度までに翻刻書を刊行するには至らなかった。現時点では、上記のデジタル画像に依拠して高い精度での翻刻とチェックが可能となったので、できるだけ早く刊行に至るよう努めたい。 一方、『源氏物語』の受容に関わる研究として、平成26年度には『源氏物語』の本文の変容とその校訂のあり方に関する論文をまとめた。すなわち、底本本文を尊重するのはよいとしても、校訂そのものを否定するような立場には与しがたいこと、本文の不審箇所についてはさまざまな本文の揺れを推理し、校訂案を示す必要があることを述べた。 以上、研究課題に直接対応する実績のほか、研究課題に関わりをもつ平成26年度中の論文として次の3本がある。まずは、『うつほ物語』と『源氏物語』を主たる対象とし、「学問」がどのように語られているのかを検討した論考である。二つめは、『源氏物語』における「ものあはれなり」の語義に関する考証で、特に接頭辞「もの」がつかない「あはれなり」との差異を明確にしようと試みた。三つめは、紫式部の伺候名として伝わる「藤式部」と『源氏物語』の作中人物「藤式部丞」との関係をおさえつつ、「藤式部」の名を伝える資料の特性から、紫式部と近辺の女房たちとの共同制作の可能性について論じた。
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