研究課題/領域番号 |
23520254
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研究機関 | 金沢学院大学 |
研究代表者 |
柳澤 良一 金沢学院大学, 文学部, 教授 (80123222)
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キーワード | 和漢朗詠集私注 / 藤原公任 / 源師頼 |
研究概要 |
影印本として刊行した石川県立図書館蔵川口文庫善本叢書2『和漢朗詠集私註・文筆問答鈔』(柳澤良一編・勉誠出版、2010年)を翻刻しつつ、その「注」についてのコメントを付し、その際、太田次郎「釋信救とその著作についてー附・白氏新楽府二種の翻刻ー」(『斯道文庫論集』第5輯、1967年)、栃尾武『和漢朗詠集私注』(新典社、1982年)、三木雅博「『和漢朗詠集私注』の方法」(『和漢朗詠集とその享受』勉誠社、1995年)、『和漢朗詠集古注釈集成 第1巻』(大学堂書店、1997年)等を参考にし、また国文学研究資料館所蔵の影印本数種類、内閣文庫及び国立国会図書館などの諸本をも参考にして、昨年に引き続いて、「石川県立図書館蔵川口文庫『和漢朗詠集私註』の研究(二)」(『金沢大学国語国文』第38号、2013年)として発表した。 この中で、「和漢」の「和」は本朝の、「漢」は中国の、それぞれ漢詩文を指し、従来の説のように「和歌」と「漢詩文」ではないとすることを指摘した。つまり、『和漢朗詠集』は、もとのかたちが本朝と中国の漢詩文を集めたものであって、和歌はもともと入っていなかったということを川口文庫本『和漢朗詠集私註』は言っているのである。しかも、漢詩文の撰は藤原公任がおこなったが、後になって(院政時代)和歌を入れるとき、和歌は源師頼が中心になって「詩文が能く相応」するように配慮されて撰入されたとあることを指摘し、『和漢朗詠集』の成立過程そのものについて新たに考察する必要のあることを論じた。川口文庫本の翻刻については手もとのメモにとどめ、緊急性のある論点についてのみ発表した。今後ともますますこの方面の研究を深めていく必要性のあることを痛感している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
川口文庫本『和漢朗詠集私註』は何回も重ねて書いていて、翻刻するのに諸本との照合が不可欠であること、また、付けられている注も引用が必ずしも正確でなく、出典との照合が必要になることなどの理由により、当初は翻刻することを目指していたため、作業に手間取り遅れてしまった。 今は全文を翻刻して発表することは諦め、要点のみをかいつまんで発表するべく、その準備をしている。その中には従来の解釈とは異なる理解が多数あり、機会を見つけて発表したいと思っている。
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今後の研究の推進方策 |
川口文庫本『和漢朗詠集』の全文を翻刻することは断念し、そのかわり、「注」についてのコメントで、従来の説と異なるものなどを、今回発表した「石川県立図書館蔵川口文庫『和漢朗詠集私注』の研究(二)」に発表したように、重点的に取り上げて発表したいと考えている。そのために、夏期休暇などの長期休業日を積極的に活用したい。 今後は、上記のまとめをおこなうとともに、新たに永禄10年(1567)西院養智院賢永本を寛永5年(1628)に観心寺檜尾山菊蔵宣海が写したことが分かる古写本の『文筆問答鈔』について翻刻をを中心とする研究を行いつつ、他の諸本(とりあえず国文学研究資料館に所蔵されている影印本中心)にも視野を広げて、校合をする中で、漢詩文の問題点についての考察をしたいと思う。
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次年度の研究費の使用計画 |
年度内に新編国歌大観(DVD-ROM版、角川学芸出版、294,000円)が発売される旨の情報が入り、購入する予定でいたところ、発売が遅れているとの連絡があり、購入のタイミングを逃してしまった。また年度末に諸本の調査のため出張する予定であったが、体調をくずし出張ができなくなったために、次年度への繰り越しが生じてしまった。 次年度は、研究の遅れを取り戻すべく、『文筆問答鈔』の他の諸本と校合をおこなうなど、本文の内容についての調査・研究をする。そのために諸本の調査先として、国文学研究資料館をはじめとして、内閣文庫、国立国会図書館、静嘉堂文庫、東京都立図書館、宮内庁書陵部、大阪府立図書館、大阪天満宮を考えている。この調査・研究によって、2009年10月号の『国語国文』第78巻第10号所収拙稿でも論じたように、『文筆問答鈔』が「聞き書き」であるという自説が補強できることを確信している。また、漢詩文関係の調査に必要なパソコンソフト一式(四部叢刊、全唐文、漢語大詞典等、今までに購入できなかった物)、パソコンの印刷機、パソコン関係消耗品、文房具等を当初の予定通り購入したい。
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