研究課題/領域番号 |
23520261
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研究機関 | 大阪工業大学 |
研究代表者 |
岡田 三津子 大阪工業大学, 知的財産学部, 教授 (50201984)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 道行文 / 宴曲 / 平家物語 / 謡曲 / 宴曲譜本 / 文学史的視点 / 特徴的用字 |
研究概要 |
宴曲詞章の文学史的考察を基点として、軍記物語・謡曲など他の分野に与えた影響を丹念に辿るために、本年度は二つの課題を設定した。第一に、宴曲譜本の悉皆調査と写真撮影を行う。第二に、伝本調査と『宴曲集』巻第四所収の「海道」上・中・下を具体的な検討対象とし近年の研究成果を踏まえて、宴曲が軍記物語や謡曲に与えた影響を丹念に辿る。 第一の点については、主要な伝本の書誌調査および写真撮影を行ったが、調査に出かけられる期間に制限があるため、完了はしていない。主要な伝本を調査したことで、従来の研究では基本的な書誌調査報告がなされていないことを再認識した。また、調査の過程で室町期の譜本だけを見ていたのでは、特徴的な漢字使用の例を見落としてしまう可能性が高いことに気がついた。続群書類従系統の伝本には、「菩薩(シドロモドロ)」「中様(ナカラヒ)」「伊(ヤスラフ)」などの興味深い用字がある。ほとんどの場合、室町期の譜本では仮名書きされているため、従来の宴曲研究では、これらの用字に着目することはなかった。しかし、宴曲の特徴的な漢字使用が、他の文学作品と一致する場合もあり、文学史的な視点から宴曲詞章を考察する際には看過すべきではない。続群書類従系統の写本を悉皆調査し、用字に重点をおいた対校本文を作る必要がある。この点に思い至ったことは、本年度の最も大きな収穫であったと考える。 第二の点については、2011年12月18日(日)神戸女子大学教育センターにおいて、特別研究会を実施し、文学史的な視点から宴曲・軍記(平家物語)・謡曲の相互の連関について考える機会を持った。また、宴曲「海道」と琳阿作の曲舞「東国下」、『閑吟集』所収の放下の謡いものとの直接的な影響関係について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
宴曲譜本の調査は緒に就いたばかりであり、未調査の伝本を多く残す結果となった。当初の計画との最も大きな変更点は、室町期の譜本の悉皆調査だけでは、目的とする校訂本文作成には至らない点に気付いたことであった。続群書類従本系統の伝本に見える特徴的な用字も含めた校訂本文を作成する必要がある。 2012年2月に調査した三手文庫本は近世の書写であるが、失われた建仁寺本・守実法親王宸筆本などとの校異を記入しており、校訂本文作成に有用な伝本であることが判明した。外村久江氏の調査(「早歌十六冊伝本の研究」『早歌の研究』、至文堂、1965年)によれば、続群書類従本系統本のなかで最良の伝本でしかも完本は松平文庫本であり、松平文庫本の書誌調査および写真撮影を経て校訂本文を作成することが必要であると判断した。その結果、室町期譜本の調査と並行して続群書類従本系統の伝本の悉皆調査をすることに方針の変更を行った。 上記のような事情から、当初の予定よりやや遅れを生じているが、具体的な資料調査をふまえた発展的な方針変更であり、より大きな成果に繋がるものと確信している。 琳阿作の曲舞「東国下」「西国下」に注をつけ、宴曲詞章・平家物語本文との関連等について考察することについては、論考2本を執筆したが、注釈そのものは完成には至っていない。校訂本文の作成とともに完成を目指したい。
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今後の研究の推進方策 |
丁寧に伝本調査を行うことで、従来の伝本分類そのものを再検証することを第一の目標とする。そのため具体的に以下の三つの課題克服を目指す。第一に、続群書類従本系統に分類されている伝本の悉皆調査と写真撮影を行う。第二に、続群書類従本そのものも複数の伝本が存在しており、それについても悉皆調査の必要がある。第三に、尊経閣文庫本の位置付けの再検討を行う。尊経閣本は、室町期の写本であるが、現在の伝本分類では続群書類従系統に分類されている。用字にも特徴があり、単純に続群書類従本系統本に分類して良いかどうか、疑問が残る。他の伝本との校異を取る過程で、尊経閣文庫本の位置付けも確定できるはずである。上記の伝本調査および写真撮影を踏まえて、用字の相違に留意して、校訂本文作成の具体的作業を行う。校訂本文作成の作業と並行して、文学史的視点から宴曲が他の分野に与えた影響に関する考察を行う。第一に、曲舞〈東国下〉〈西国下〉に注釈を付ける。研究代表者岡田が行う。第二に、昨年度の特別研究会で問題提起された、宴曲譜本・謡本の譜・平曲譜本の関連について考察する。第三に、三手文庫本に記された謡い方に関する注記について具体的に考察する。第二と第三の点については、平曲譜本の第一人者である連携研究者の鈴木孝庸が行う。第四に、昨年度に続いて特別研究会を実施する。『明月記』研究会の主要メンバーである連携研究者櫻井陽子が、発表者の選定および依頼を含めた研究会の企画を行う。第五に、三名で研究会を定期的に開く。その際、宴曲研究の第一人者である外村南都子氏にもできるかぎり研究会への参加を依頼する。 上記の研究活動を通じて、歌謡研究のなかで閉じられていた宴曲について文学史的視野から考察を行い、中世において道行文が形成されていく過程を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成23年度当初の予定では、宴曲伝本調査旅費予算として、75万円を計上していた。しかし、3名(研究代表者および連携研究者2名)の予定が合わず、北海道大学本の調査ができなかった。また、同様の事情により、東京での関連資料調査および研究会も実施できなかった。その結果、平成23年度の旅費総額は、47万円となった。当初予算との差額28万円を、平成24年度への繰越金(平成24年度使用額)とした。 平成24年度は、伝本調査および3名での研究会開催のため、旅費として55万円を支出する。写真撮影および焼き付けの費用として45万円を支出する。写真撮影のための機材購入費用として消耗品費から5万円を支出する。校訂本文作成に際しては、必要に応じて入力アルバイトを雇用するための謝金として、10万円を支出する。関連図書の購入費用として7万円を支出する。 昨年度開催した、特別研究会に続き今年度も特別研究会を開催する。今年度は『宴曲抄』所収「熊野参詣」(その一からその五)をテーマとして、歴史学・歌謡・軍記ものの研究成果を踏まえた研究会とする。研究発表者への謝金および旅費として16万円を支出する。研究会開催のための雑費(案内発送費・ポスター作成費用・会場費等)として5万円を支出する。
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