最終年度に当たる本年度は、前年から引き続き、『明題部類抄』を中心に据えて歌題集成書類に記載される個々の詠出機会を比較検討する作業をおこなった。あわせてこれまで作成してきたデータの見直しを実施し精度を高めた。さらに私家集類の歌題や各種歌合の歌題など、これまで等閑視していた分類に属するテキストからも歌題収集をおこない、歌題集成書類のデータとの照応も試みた。例えば、平安期の家集である経信集や朝忠集、輔親集などもその対象に含まれるが、これらについては思わしい結果が得られなかった。 『明題部類抄』については、これまでの研究から、歌題集成書の一種の基準作と扱い得るものと位置づけられる。よって今年度は本文研究という視点から各伝本を詳細に比較し、従来の研究で述べられてきたことを確認するとともに、より個別的な伝本毎の特徴をとらまえた。『明題部類抄』の諸本については、先行研究により七巻本である一、二類本と、別本を総括する三類本という三分類が示されている。今回は各類から書写者と伝来の上から注目される、陽明文庫本、細川永青文庫本、防府天満宮本を取り上げ、その本文異同や欠脱の発生に注目しつつ詳細に再検討した。その結果、上巻のみが伝存する一類本の陽明文庫本は、錯簡、欠脱を含みつつも一類本の(1)から(2)へ至る過程の本かと考えられること、二類本の細川永青文庫本は三条西実条本ながら誤脱を含む本であること、三類本の防府天満宮本は巻三までは一類本と指摘されてきたがそのうち(1)の可能性が高いことなどを明らかにした。以上の具体的内容については論文の形で公表した。 さらに研究の総括なる論考を執筆中で、今年度内に公表を予定している。
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