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2011 年度 実施状況報告書

古代和歌における定型と歌体認識の発達過程の研究

研究課題

研究課題/領域番号 23520266
研究機関京都大学

研究代表者

佐野 宏  京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (50352224)

研究分担者 寺島 修一  武庫川女子大学, 文学部, 准教授 (60290409)
研究期間 (年度) 2011-04-28 – 2014-03-31
キーワード字余り / 歌体 / 表記体 / 用字法 / 定型 / 和歌史
研究概要

本年度は、当初計画通り、藍紙本、天治本、尼崎本、伝壬生隆祐筆本、春日本の字余り句の分布調査を行った。予測通り次点本諸本ではA群・B群の字余り句分布は先鋭化するが、下点時期の検討を含めて古今和歌六帖との対照を行った上で分析することにした。古今和歌六帖に含まれる萬葉歌のテキスト・データ化を行い、第四類本を中心とする『人麿集』のテキスト・データ化も併せて行った。 今年度は検討会を重ねる中で、思いがけない発見があった。それは寺島氏より、なぜ萬葉集の表記体は多様であるのかという質問があり、それを承けて、佐野は萬葉集の表記体の整理を試みた。字余り句の分布調査にあっても訓字主体表記は当初から問題視していた。萬葉集の表記体を構成する要素を用字法ベースで捉えると、いずれの表記体も「訓字」「音仮名」「訓仮名」の要素の集束からなっている。一方で、7,8世紀の出土木簡等から当時の「俗表記」では用字法に制限がなく、比較的自由に書記していることが知られている。ここに歌一首の表記の用字法に制限がない場合を萬葉集の標準的な表記体だと仮定すると、萬葉集の多様な表記体は、いずれかの用字法を制限することで形成されていると記述できる。古代和歌の表記体は所与のものではないとみられるから、萬葉集の多様な表記体は、自由な用字法を制限する形で、歌表記の定型性を目指す過程で成立しているとみなすことができる。この「表記体における定型性」の発見は、歌体の発達を考える上でも示唆を与えるものである。 表記体と用字法の関係は、本研究の副産物であったが、専攻の異なる者同士の自由な意見交換と活発な討論によって得られた成果である。計画では次点期諸本の字余り句分布について研究発表を行う予定であったが、それを変更して、萬葉集の表記体の形成と用字法制限について、さらに古代和歌における「表記体」の位置づけについて、二つの学会で口頭発表を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

今年度は、昨年度末の東日本大震災直後に影響が予想されたため、4月の第1回検討会において、佐野・寺島で研究計画の見直しを行った。文献調査及び講師招聘に関わる人員に間接的な被災の影響があったために、文献調査と研究会開催を次年度に繰り越して、次年度の計画の一部を先取りする形で作業を進めた。 基金未入金の時期が長引いたことで、最初から佐野と寺島は助力し合うことが常態化していたが、このことが既知情報の共有と、問題意識の共有を深めることになった。まったくの偶然であったが、結果的に大きな発見につながったと考えられる。 研究会開催が次年度に持ち越された以外は、ほぼ当初の計画通りに進捗した。さらに次年度の計画を先取りする形で『類聚古集』のテキスト・データ化は一次入力を終えることができた。校正作業や各句索引の作成は進行中であるが、字余り句分布についての次点期の見通しがたったといえる。全体の達成度は当初計画ベースでは70%であるが、計画変更後は90%の達成であり、その過程で新発見が得られたことを加味すれば、予想以上の成果であったといえる。 但し、今年度は震災の影響下にあり、パソコンその他の必要な物品・ソフト類が揃ったのは10月以降であった。当初は夏休み中に予定していた入力・校正作業の人員の手配ができず、佐野・寺島が助力し合ったとはいえ加重負担であったことは否めない。この点は次年度は解消できるものと考えている。

今後の研究の推進方策

次年度に研究会開催や講師招聘を繰り越す形にしたが、それ以外は当初の計画通りに進める。今年度は、専攻の異なる者同士の自由な討論から新たな発見があった。既知情報の共有と問題点の検討に大幅な時間を割いたことが奏功したといえる。分担者との情報共有を重視して、より緊密な連携を心がけたい。 また、テキスト・データ化は佐野・寺島が入力した一次入力の段階であるから、大学院生らのアルバイトを依頼しての校正作業、連携協力者の助力を得てさらに検索データベース化を目指す。この作業にはある程度の時間が必要とされるため、やや計画を早める形で対応する。

次年度の研究費の使用計画

次年度は、本年度に未達成であった文献調査による旅費、及び講師招聘に関わる謝金、校正作業に関わる人件費が大幅に増加する。 本年度からその分を次年度に繰り越してあるため、予算計画の大幅な変更はないと考える。なお研究代表者の佐野の転出にともなって、同一大学内部での一括したアルバイト雇用の形はとれないため、佐野・寺島双方から人件費を支払う形をとる。

  • 研究成果

    (2件)

すべて その他

すべて 学会発表 (2件)

  • [学会発表] 古代日本における歌の「表記体」について

    • 著者名/発表者名
      佐野宏
    • 学会等名
      東アジア日本語教育・日本文化研究学会 2011年度国際学術大会
    • 発表場所
      INALCO フランス国立東洋言語文化研究学院
    • 年月日
      平成23年11月5日
  • [学会発表] 萬葉集の「表記体」と用字法

    • 著者名/発表者名
      佐野宏
    • 学会等名
      萬葉学会
    • 発表場所
      園田学園女子大学
    • 年月日
      平成23年10月9日

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公開日: 2013-07-10  

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