研究課題/領域番号 |
23520271
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
寺島 恒世 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (80143080)
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キーワード | 歌仙絵 / 業兼本三十六歌仙絵 / 時代不同歌合絵 / 俊忠本三十六歌仙絵 / 左書き |
研究概要 |
24年度の実績と同様に、平成25年度も概ね当初通りに研究を遂行できた。その概要は以下の通りである。 三十六歌仙絵につき、鹿児島県出水市の市立歴史民俗資料館蔵愛宕神社本、同市箱崎八幡神社蔵本、香川県三木町の和爾賀波神社蔵本、香川県琴平町の金刀比羅宮蔵本(2点)を対象に、調査に行い、許可された資料に関しては、デジタル画像収集を実施した。時代不同歌合絵については、諸本の図像の比較検討を行った。また、徳川美術館・根津美術館をはじめとする諸美術館・博物館の貴重資料展示の熟覧を重ねた。 上記の調査・収集資料を整理し、歌仙図と書式を主に三十六歌仙諸本との比較分析を加えた。 平成23・24年度の調査・収集及び資料分析の成果をも踏まえ、上述の分析から考察したところをもとに、論文を2本執筆した。1本は、藤房本三十六歌仙の特異性を論じたものである。具体的には、諸本には見られない歌仙絵の描かれ方に関し、身体の向きと服飾への関心が主となっていることを導き、それが本作固有の錯簡と関連する可能性に及ぶ新たな見解を公表した。別の1本は、三十六歌仙の系統において佐竹本とともに二つの主要な系譜を築く業兼本の特質を、従来指摘されてはいない書式の面から新たな考察を加えたものである。平成24年度の成果で言及した「時代不同歌合絵」との関連性についての解明をさらに発展させ、二首本三十六歌仙絵系統の俊忠本の特質等から、「左書き」という特異な形式の問題を含め、新たな観点からの考察を試みた。これは現在投稿中で、平成26年7月刊行の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
三十六歌仙絵と時代不同歌合絵については、きわめて順調に進捗したが、当初予定していた類似三十六歌仙絵に及ぶことは不可能であった。それは、歌仙絵における書式の問題につき、研究過程で新たな見方が提示できる可能性が見いだせ、その分析と考察に精力を注いだからである。その結果、業兼本三十六歌仙絵との時代不同歌合絵との関わりにつき新見を提示することが可能となり、絵と書の両面からの考察を論文としてまとめ得た。以て、概ね順調と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画では、平成26年度は類似三十六歌仙絵をも含めた検討を行い、全体をまとめる予定であった。しかし、研究実績の概要で触れた通り、書式の面から三十六歌仙絵と時代不同歌合絵との相関や左書きという特異な表記についての新たな考察をなすことができ、その深化が重要と思われるので、類似三十六歌仙への展開に関する計画をやや変更し、その面での検討を減少させ、書式の面で追究をさらに重ねることとする。また、上記成果をEAJSで発表する機会を得たので(2014年8月29日、於スロベニア)、そこでの質疑を踏まえ、考察を深めたい。それらを踏まえて、最終的な総括を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
本務の多忙化により、調査を減らさざるを得なかったことも一因ではあるが、主には、当初予定になかった2014年8月にスロベニアで開催される国際研究集会(EAJS)への参加の旅費を措置するためである。 スロベニア(リュブリャナ)への往復及び滞在費分に宛てる。
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