鎌倉時代以降、多様に展開する「三十六歌仙絵」は、有名な佐竹本の系譜ではなく、業兼本(なりかねぼん)の系譜が主流を形成する。それは業兼本が「時代不同歌合絵(じだいふどう-うたあわせ-え)」の影響を受け、歌合絵としての属性を継承し、創造性を発揮したからである。例えば、「左書き」という元来日本語にはない表記が生み出されるのも、歌合として左と右を対向させる強い志向に発するものであった。 歌仙絵の展開を究明するためには、歌合絵との関係を鮮明にすることが必須となる。また、それが未だに実態が明らかではない「百人一首絵」の成立の謎を解く鍵となるはずである。
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