研究課題/領域番号 |
23520272
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研究機関 | 国文学研究資料館 |
研究代表者 |
中村 康夫 国文学研究資料館, 研究部, 教授 (60144680)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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キーワード | 栄花物語 / 古本系 / 北村季吟 / 歴史意識 / 絵入版本 / 筆跡 / 書き入れ |
研究概要 |
栄花物語の本文研究は早くは松村博司氏によって大々的に進められ、『栄花物語の研究』の出版によって広くその成果が示された。そこでは梅沢本の優位性が示され、その後の栄花物語の注釈書などはすべて梅沢本を底本にしているというのが現在の状況である。 ところが、梅沢本はその形態からして取り合わせ本であることが初めから疑われ、近年、実際に取り合わせ本であることを実証する研究が現れて、梅沢本の高い位置に対して疑義が提示された。 そこに加えて、栄花物語の古本とでもいうべき本文が紹介され、急速に本文研究に活況を呈する事態となっている。この本文は平安時代に顕昭が実際に見ていた栄花物語の本文であると判断され、詳細な研究が進められる必要が生まれている。 そのためには、松村博司氏が見ておられないと思われる本文を初め、既に評価されている本文についても、注記などを含めて総合的に本文を調査し直す必要があり、ここに科学研究費を利用することによってその調査を進めているものである。昨年度は国立歴史民族博物館、和歌山大学付属図書館、鶴見大学図書館、秋田県立図書館、宮内庁書陵部、梅花女子大学図書館、岡山大学図書館に調査に行き、特徴的な箇所の調査を行った。 また、本研究は併せて江戸時代初期に京都で版行された絵入抄出本は誰の手によって本文が抄出されたかまったくわかっておらず、その本文の特徴についてもまだ研究が始まったばかりである。その時、中村の架蔵になる写本に「季吟しるす」と奥に書かれており、とりあえず端緒として季吟の可能性を吟味する必要がある。昨年度はノートルダム清心女子大学付属図書館、熊本大学付属図書館を調査した。ところが、書込が何本によるか特定されておらず、調査に手間取っている。 加えて、昨年度はそれらの研究成果の出版も意識して研究補助者の手によって本文の電子化も進め、着々と予定を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正確には(2)と(3)の間かと思われるが、昨年度は東日本大震災の影響もあって調査予定を変更しながらできるところを進めたという感がある。特に古本系の本文については微細なところまで調査が進む必要があり、再調査を含めて今後の調査を組まなければならない。 絵入抄出本についても、季吟本の根拠となるノートルダム清心女子大学本にどの書き入れが季吟の書き入れかを明示しておらず、それを抽出して明示するところから研究を進める必要があり、想定以上に時間がかかる事態となっている。 ただ、それなりに調査を進めたところについては成果も出ており、今年度の精力的な取り組みによって、予定に近い成果を上げることができると考えている。 研究補助者の作業については、ほぼ予定通り進行している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、学習院大学蔵本に認められる古本系とでも呼ぶべき本文については、さらに調査を拡充し、諸本への書き入れ等を含めた調査を進めていくしかない。また、絵入版本と北村季吟との関係については、季吟自筆とされるものの筆跡調査をさらに拡充し、季吟と歴史物語との関係について、季吟の諸作品の内部・外部を問わずさまざまな徴証を見つけていかなければならない。そういう意味ではどちらも丹念な調査を続ける必要があり、今年度はそれを進める。 また、最終年度の成果物出版のために基礎作業を着々と進めていく必要があり、こちらも昨年以上に推進する予定である。 「季吟しるす」と奥に書かれた本については、必ずしも、その本が季吟の自筆になるものであることを要するものではない。後人の誰かが、その可能性を考えて書き込んだ可能性もあり、本研究ではその可能性とは何かということも含めて調査・考証を進めていかなければならない。少なくとも、現在までの研究について言えば、季吟と歴史との距離はかなり遠いものがあり、そこをどう縮められるかも課題となるところである。
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は東日本大震災という予想不可能な災厄があり、さまざまに節約が叫ばれ、予定していた調査も消耗品の購入も、先に延ばして進めざるを得なかった。今年度はその意味合いがかなり低減されていると感じられるので、本来の予定に戻して様々なことを実行していきたい。 古本系と称すべき本文の関連の調査は一つ一つについて長期にわたる調査が必要であり、可能な限り実現していきたい。 また、絵入版本と季吟との関係については、作業補助者の協力を得て昨年度調査したノートルダム清心女子大学本の細かな分析にはいると同時に、季吟学とでもいうべきものと歴史意識との関連について資料を博捜する必要があるので、こちらにも作業補助者の協力を得て、力強く進めたい。 そのために作業用のパソコンなどが必要になってくると思われる。 もちろん、関連の調査も続けて進めていく。
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