研究概要 |
ロマン主義時代に誕生し、成立した国民小説(National Tale)は植民地支配下にある小国を舞台にし、過去の民族の歴史や文化的栄光を讃え、その一方現在の政治的苦境を宗主国であるイングランドの読者に訴えることを主眼とするきわめて政治的色彩の強い小説ジャンルである。本研究の目的は、マライア・エッジワース(Maria Edgeworth, 1767-1849)、シドニー・オーエンソン(Sydney Owenson,1783-1859)などのアイルランド出身の女性作家によって構築された国民小説が、ヴィクトリア朝時代に引き継がれていく過程でいかなる修正、変容を加えられたのかを、小説に用いられている枠組み、テーマ、道具立て、そして作家の宗教意識、政治意識などを分析することによって検証し、錯綜する19世紀小説にある種の見取り図を提示することである。 今年度は、前年度に引き続き、文献収集のため大英図書館に出かけた。本研究に有益な資料を手に入れた。論文は1篇公表した。「イギリスの状況小説としての『エマ』─偽善と欺瞞、スパイ行為と裏切り」である。ジェイン.オースティン(Jane Austen, 1775-1817)が当時の摂政皇太子をどのように見ていたか、さらには摂政時代におけるイギリスの政治状況をいかに捉えていたかを検証した。また、昨年度口頭発表した「スコットの『外科医の娘』におけるインド表象」を論文にまとめた。公刊は2013年7月の予定である。この論文では、シドニー・オーエンソンと同時代人であるサー・ウォルター・スコット(Sir Walter Scott, 1771-1832)のインド表象を手がかりに、彼の政治意識を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料収集に関しては、おおむね順調に進んでいる。論文の執筆もおおむね予定通りに進行している。今年度は、ロマン主義時代を代表する作家ジェイン・オースティンとサー・ウォルター・スコットに関する論文を執筆し、オースティン論はすでに公刊されている。スコット論は、予定より少々遅れたが、今年の夏には公刊される予定になっている。フィービ・ギブズ(Phebe Gibbes, ?-?)の『ハートリー・ハウス、カルカッタ』(Hartly House, Calcutta, 1778)論を研究会で発表するはずであったが、準備不十分のため発表にはいたらなかった。今年の5月には発表する予定になっている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度とほぼ同じ手順で行う予定である。(1) Charles Robert Maturin, Woman: or, Pour et Contre (1818), John Gault, Ringan Gilhaize (1824), Thomas Moore, Memoirs of Captain Rock (1824), John and Michael Banim, Tales by the O'Hara Family (1825), Christian Johnstone, Elizabeth de Bruce (1827), James McHenry, O'Halloran (1828)などの本研究課題に密接に関わる作品を大英図書館、ケンブリッジ大学t図書館などからマイクロフィルムおよびかのうであればフォートーコピーの形で取り寄せる。(2)取り寄せたマイクロフィルムは、現像し、製本して読みやすい形にする。(3)製本した作品を精読し、分析結果をカードに取り、必要に応じてパソコンにデータを打ち込む。資料などの整理は、院生に委託する場合もある。(4)国民小説の政治的特色を明確化するため、ロマン主義時痔兄刊行されたスコットランド旅行記、論評などを多数入手し、精読し、分析する。(5)イギリスに資料種集に出向き、文献のさらなる充実を図る。
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