本研究の目的は、Maria Edgeworth、Sydney Owenson、 Sir Walter Scottなどのアイルランドやスコットランド出身の作家によって執筆された国民小説(National Tale)がヴィクトリア朝時代に引き継がれていく過程でいかなる修正、変容を加えられたのかを、小説に用いられている枠組み、テーマ、道具立て、そして作家の宗教意識、政治意識などを分析することによって検証し、錯綜する19世紀小説にある種の見取り図を提示することである。 最終年度にあたる今年度は、二回の学会発表と二篇の論文執筆に取り組んだ。学会発表の一つは「ヘイスティングズ裁判とロマン主義時代の女性作家」(日本英文学会第86回大会招待発表、20014年5月)である。この発表では、Phebe Gibbes とElizabeth Hamilton のインドを舞台にした二作品を分析することによって、作家の政治意識、宗教意識を探った。もう一つは、「異国への旅─ロマン主義時代の英国小説を中心に」(片平会50周年記念大会招待講演、2014年8月)であり、Owensonと Scottの作品の主人公が、国民小説の常套的な枠組みに従って、インドへの旅に出かける様を跡付け、両作品に見られる政治意識の違いを指摘した。論文の一つは「『縁故』に見られるマライア・エッジワースの国家観─都会、田舎、そして教育」である。Edgeworthの国民小説『縁故』に潜む政治的戦略を検証した。この作品においてEdgeworthが提示した理想の国家像は、連合王国よりも一層大きな枠組みをもつ北ヨーロッパ・プロテスタント国家の集合体であることを指摘した。二つ目は「異郷への旅─オーエンソンとスコットのインド表象」であり、OwensonとScottの国民小説に潜む政治的意図を探ることによって、両作家の政治意識の違いを明確にした。
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