ロマン主義時代に成立した国民小説(National Tale)は、植民地支配下にある小国を舞台にし、過去の民族の歴史や文化的栄光を称え、現在の政治的苦境を宗主国であるイングランドの読者に訴えることを主眼とするきわめて政治性の強い小説ジャンルである。 本研究の目的は、マライア・エッジワース、シドニー・オーエンソンなどのアイルランド出身の女性作家によって構築された国民小説が、ヴィクトリア朝時代に引き継がれていく過程でいかなる修正、変容を加えられたのかを、小説に用いられている枠組み、テーマ、道具立てを分析し、作家の宗教意識、政治意識などを浮き彫りにすることによって検証した。
|