研究概要 |
ホガースのポルノグラフィは「理神論」と「フリーメーソン」受容の帰結であり、それはしばしば「好色な聖職者」の図像として結実する。本年度の研究では「好色な聖職者」あるいは、「宗教と好色」に分類できる図版として、特に、『眠る会衆』と『軽信、迷信、狂信:描かれた熱狂』を取り上げ、図像解釈学の理論を援用し、これらの図像が描かれた要因を明らかにした。以下に述べるように、主に2つの要因が解明された。 (1)『眠る会衆』(第3ステート)(The Sleeping Congregataion, Third State, 1736)の主題は、イギリス国教会批判である。批判の手段は一義的には、説教に飽き、居眠りする会衆にあるが、別の重要な局面となるのは、はだけた乳房を盗み見るイギリス国教会の牧師である。乳房が強調された娘は、Ronald Paulsonによれば聖母の異像である。好色な目にさらされる聖母を描くことによって、ホガースはイギリス国教会のみならずキリスト教を批判した。版画中の逆三角の図像は、キリスト教に代わるものとして、フリーメーソンを示唆する。ホガースは教会という制度に代わるものとして、フリーメーソンという秘密結社の集会所(Lodge)の優位性を主張したのである。 (2)『軽信、迷信、狂信:描かれた熱狂』(第1ステート)(Credulity, Superstition, Fanaticism: Enthusiasm Delineated, Fisrt State, 1760)の主題は、メソディスト(と非国教徒)批判である。メソディスト会派の集会における一種の乱痴気騒ぎを描いたこの版画では、好色なメソディスト(乳房を触る貴族の放蕩者など)を画面に配することによって、信仰の狂熱がしばしば好色と同義であるということが諷刺されている。
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