研究計画の最終年度にあたる本年は、前年度から本年度に移行した海外渡航による資料収集と文献研究、それと連動するスコットランド系詩人の研究を行い、その成果を学会で発表して研究計画を締めくくった。 渡航に先立ち、Romantic Women Writers Reviewedの第2期刊行分が入手できたので、前年度からの懸案であったその精査を行ない、海外で閲覧・収集すべき文献を抽出した。次に、大英図書館とオックスフォード大学ボドリアン図書館で資料収集を行った。特に二人のスコットランド系詩人アン・グラントとアンドルー・スコットに関する資料で重要なものを収集することができ、前者については本年度の学会で利用することになった。 帰国後は収集資料の整理と学会発表の準備を開始し、欧米言語文化学会第127回例会(於日本大学)において、「予約購読出版詩集と定期刊行物書評――グラント夫人の場合」として、成果の発表を行った。研究発表は、同時代の予約購読形式出版詩集の特殊性とその詩集が定期刊行物書評として取り上げられる意義を提示したうえで、その事例研究としてのグラントの詩集の同時代における受容の実情を説くものであった。本発表の基盤は、平成22年度までの基盤研究(C)での女性詩人の予約購読形式出版に関する研究も活用したもので、その成果を土台にして、当該詩人の同時代受容と文学史上の意義を、その定期刊行物書評の分析を通して探るものであった。 3年間の研究によって、予約購読出版形式詩集にとっての定期刊行物の書評の役割を具体的な事例から明らかにすることができた。即ち、中流階級支援者(予約購読者)によって文壇に登った社会的発言力が弱い無名詩人(女性や労働者階級等)が、定期刊行物書評を通して、予約購読という限定的にしか知られていなかったその存在を広く認知される文壇上のプロセスを具体化できたのであった。
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