物語言説にかんする理論構築に寄与すべく出発した本研究計画における重要な成果のひとつは、ヴラジーミル・ナボコフに代表される20世紀以降の虚構テクストにかんする研究方法の基礎を築いたことである。基本をなすものは、いうまでもなく伝統的な精読の方法であるが、ともすれば旧弊な、時代遅れのものと見なされがちなこの方法の実質的効力を実地に証明すべく研究代表者(鈴木)は過去9年ないし10年にわたり研究に携わってきたということができる。 いうまでもなく完璧性を企図して自意識的に構築されたナボコフの長篇小説のようなテクストを対象とする場合、研究者・批評家に作者と同様の細心さと網羅性が求められるのは当然であろう。
|