研究課題/領域番号 |
23520290
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
山本 卓 金沢大学, 学校教育系, 教授 (10293325)
|
研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2014-03-31
|
キーワード | 太平洋文学 / 英語圏文学 / ニュージーランド / マオリ / 植民地主義 |
研究概要 |
平成23年度は太平洋文学の代表的作家Albert Wendtを中心に研究を進めた。彼を起点に、Epeli Hau‘ofaやLarry Thomas、Vilsoni Hereniko、Sia Figelなど、Wendtと同時代もしくは彼に続く作家を広く取り上げ、太平洋文学におけるWendtの位置づけを相対化したが、その過程で彼の創作活動の場の変遷が重要な検討項目として浮上した。Wendtの作風の変化を辿ると、居住地の移動や旅行といった彼を取り巻く状況の変化がかなり直接的に作品に反映されていることに気づく。なかでもBlack Rainbow(1992)は、太平洋の島嶼作家からニュージーランドにおけるポリネシア系作家へのWendtの変化を刻印する作品として重要である。明確にポリネシア人とは言及されない主人公や、ポストモダン的な手法による重層的な物語構造は従来の彼の作品には見られないものである一方で、90年代や2000年代における伝統回帰の色の濃いWendt作品を暗示する。Black Rainbowの論考は初年度における具体的な成果である。 本年度後半には計画を前倒しして、ニュージーランドの文学状況(とくにマオリ作家)についての研究にも着手済みである。申請書においては、ニュージーランドやフィジーに資料収集に赴くことになっていたが、作業の効率を上げるために国内で入手できる資料についてはできる限り収集し、海外での資料収集はそれを補完するものとした。目下、Witi Ihimaera、Patricia Grace、Keri Hulme、Alan Duffといった作家の作品を継続して読解中であり、読解と国内資料収集にある程度の目処がついた時点(平成24年度中頃)で、海外への渡航を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね当初の研究計画通りに進行している。Albert Wendtをはじめとする島嶼作家については、短編や評論にいたるまで網羅的に検証した。それと平行して、太平洋の歴史や民族史をヨーロッパ人入植を中心に整理した。また、ニュージーランドのマオリ作家についても基礎資料の収集とその読解に着手した。 現地での資料収集は、作業の効率化を図り国内でできる限りの資料を集めることにしたため、当初計画した初年度の渡航は遂行できなかったが、それを除けば研究はおおむね計画通りに進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度は実施計画通り、マオリ文学作品の読解と検証を行う。その際の手法としては、島嶼文学作家に用いた、(1)中心研究対象作家の確立、(2)周辺作家を通した相対化、(3)関連資料を用いた包括的なテクスト分析である。 マオリ文学が太平洋文学として扱われるようになるのは、今世紀に入ってからのことであり、まずは今世紀以前のマオリ文学の系譜と傾向を確認する必要がある。それにあたって、島嶼作家のAlbert Wendtに相当するのが、マオリとしては初めて小説を出版したWiti Ihimaeraである。すでに平成23年度には計画を前倒ししてIhimaeraの読解に着手しているが、過去から近年の作品へと通時的に読解することで、彼の作品におけるヨーロッパ人像の変遷を探る。さらには、Patricia Grace、Keri Hulme、Alan Duffなどの作家の作品を併せて読み、Ihimaeraの白人観を相対化する。 それらの作業と並行して、マオリの歴史をマオリ/ヨーロッパ系入植者の対立に着目して分析する。マオリ文化の復興はマオリ系作家の台頭と密接にかかわっており、文学作品を論じるにあたって、当時の主要な議論や国民意識、マオリの主張を詳細にわたって調べる必要がある。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度の経費は、前年度に実現できなかった取材旅行を中心に使用する。太平洋文学研究の拠点であるニュージーランド、ハワイ、フィジーを訪れ、国内で収集できない資料を発掘する。また、これまでの研究活動によって確立した環太平洋文学の研究者との交流を実質的なものにするために、数回の国内打ち合わせと資料の閲覧のための出張も計画している。これらの費用は80万円程度を見込んでいる。 物品費として、引き続き国内資料の収集を主な使用目的とする。前年度にかなりの量の図書を揃えているため、平成24年度は15万円の予算とする。資料整理のための人件費、取材協力の謝金として5万円程度を計上する。
|