最終年度は前年度に検証した島嶼作家とマオリ作家の比較を主軸に、2000年代のニュージーランド文学作品にまで研究対象を広げるとともに、サモアの白人像としてAlbert Wendtが強く意識するR. L. Stevensonにも遡りながら研究を進めた。 WendtとWiti Ihimaeraの比較によって、島嶼文学とマオリ文学の合流地点を1980年代後半から1990年代前半にかけた期間に同定できた。それまで両者は環境の違いによるテーマや表現方法の差異が目立ったが、歴史観の書き換えの手段としての白人表象という概念で作品群を読解すると、1990年頃以降において密接な相互関連性の存在が顕在化する。ここで重要な作品となるのが、IhimaeraのThe Matriarch (1986) である。マオリ土地運動を描いたこの作品は、白人によって書かれた歴史への批判となっている一方で、そのマジック・リアリズム的な表現方法は、近未来のニュージーランドを舞台としたWendtのBlack Rainbow (1992) と共鳴する。また、The Matriarchのヒロインは、WendtがOla (1991) において描出した、地方性を超越した太平洋女性像の原型とも解釈できる。さらには、民族の歴史の再構築という試みは、Alistair Campbellの詩集 Maori Battalion (2001) やPatricia GraceのTu (2004) といった国際紛争を題材にしたマオリ性の再検証というテーマへと続く系譜となる。一方、Wendt作品における白人像を分析にするため、彼がThe Mango's KIss (2003) に白人像のモデルとして登場させたStevenson自身の歴史観も間接的に検証した。前年度のオークランド大学、今年度のハワイ大学での資料収集はこうした成果に大きく貢献した。
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