研究課題/領域番号 |
23520296
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
道木 一弘 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (10197999)
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キーワード | 物語論 (narratology) / ジョイス(James Joyce) / ベケット(Samuel Beckett) / コンテクスト(context) |
研究概要 |
本研究の目的は、ジョイスとベケットの小説における語りの特質及びその歴史的・社会的コンテクストとの関わりを、最新の物語論の動向を視野に入れながら、調査研究することである。 二年目となる24年度においては、前年度に行ったベケットの最初期の小説『蹴り損の棘もうけ』(More Pricks thank Kicks, 1939)の分析を踏まえ、この後に書かれた重要作品の一つ『ワット』(Watt, 1941)を精読し、その語りの特質について分析した。また、この作品が執筆され、ベケットが第二次大戦中にナチス占領下のパリを逃れて身を寄せたフランス南部の村ルシヨンと、パリにあるジョイスとベケット所縁の場所を訪問し、現地調査と資料収集を行った。 また、作品と作家の実人生及びコンテクストの関係を考える上で、ジョイスと深く関わったアイルランド詩人 W.B イェイツが Ulysses において如何に作品化されているかを考察し、その成果を日本ジェイムズ・ジョイス協会第24回研究大会において発表し、その原稿を加筆修正して「Ulysses の中のW.B.イェイツ」として愛知教育大学『外国語研究』46号に発表した。 作品の研究としては、現在、『マーフィー』(Murphy, 1938)とジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』を精読し、研究ノートを作成中である。 ジョイスとベケット及び物語論に関する研究論文等の収集と分析は予定通り進んでいる。尚、今年度は、自らが主宰する名古屋ナラトロジー研究会を2回(9月9日,3月23日)開催し、最新のナラトロジーに関する論文を読み、その問題点について討議を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の土台となる作品の精読、特にベケットの作品の精読は昨年に引き続き順調に進んでいる。今年度は『ワット』を分析し、その研究ノートをまとめることができた。また、この作品が執筆された場所の現地調査も予定通り行うことができた。ジョイス関連では『ユリシーズ』について全国規模の学会(日本ジェイムズ・ジョイス協会)で研究発表を行い、それを紀要論文としてまとめた。よって、本研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる25年度も当初の予定通り、ジョイスとベケットの作品研究(精読と分析)及び物語論の最新動向調査を進めながら、作品のコンテクストに係る海外での現地調査を行うことで研究の推進を図る。また、こうした成果を学会で発表したり、研究論文にまとめる予定である。 具体的には、昨年度に作成したベケットの『ワット』の研究ノートを基に、先行論文等を整理分析し、この作品の語りの特質についての研究論文を執筆する予定である。またこれと並行してジョイスの『ウェイク』の精読も予定通り継続する。 現地調査としては、ベケットが1936-1937にかけて滞在したドイツを訪問し、主にハンブルグ、ベルリン、ドレスデン、カッセルの諸都市を訪れ、資料収集等を行う予定である。また、こうした調査の結果は前年度のフランスでの現地調査と合わせて、研究レポートとしてまとめたいと考えている。 自らが主宰する名古屋ナラトロジー研究会では、引き続き物語論に関する最新の研究論文(David Herman, Basic Elements of Narrative, 2009)を読み分析を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(約23万円)については、フランスでの現地調査を諸般の事情により予定した期間より短縮せざるを得なかったためである。ただし、次年度においてはドイツでの現地調査をより充実するためにこの金額を合わせて使用する予定である。
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