1920年代から第二次世界大戦にかけてのベケットとジョイスの歴史的・文化的コンテクストを、フランスとドイツでの現地調査等を踏まえ、包括的にとらえることができた。その上で、最新の物語論(ナラトロジー)の知見を参考に、ベケットの初期小説群の語りとジョイスの小説(特に『ダブリンの人々』と『若き芸術家の肖像』)の語りを比較分析し、人物描写や場面設定等において応答的関係が存在することを突きとめた。 また、アイルランドの国民的詩人W. B. イェイツとジョイスの関係性を、ジョイスとベケットのそれを考える上でのモデル・ケースとして位置付けることで、伝記的・テーマ的アプローチを超える新たな方法論を提示した。
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