研究課題/領域番号 |
23520301
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中村 未樹 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (00324872)
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キーワード | ルネサンス演劇 / 演技 / 観客反応 / 身体 / 情緒 |
研究概要 |
ルネサンス演劇における演技と観客の情緒的・身体的反応の関連性について考察することを目的として、平成24年度は以下の研究を行った。 1.16世紀末から17世紀初頭までの英国の舞台における演技の形式の変遷について検討するために、当時の人気役者の一人であったエドワード・アレンについての考察を昨年度に引き続き行った。2012年9月には、イギリスのバーミンガム大学シェイクスピア研究所の附属図書館においてエドワード・アレンについての記録の調査を行った。今年度は特に、アレンの身体的特徴と演じた役柄との関連性、また、ウィリアム・シェイクスピアの初期の劇作品における人物造形との関係について分析を試みた。この研究の成果をまとめたものとして、研究論文‘The Aura and Shadow of Edward Alleyn’ を大阪大学英米学会の機関誌『英米研究』第37号に発表した。 2.初期近代英国の舞台において、役者たちがどのような身体表現の型を用いて感情を表したかについて考察した。今年度は1580年代後半から1590年代前半までの演劇作品を対象として調査を行い、身体表現に関わる型の使用の状況について分類及び分析を行った。 3.17世紀以降において、リチャード・バーベッジのパーソネイションのスタイルがどのように後輩役者に継承されていたかについて検討するため、バーベッジの演じた役柄を引き継いで演じたと推定されている役者に関する一次・二次文献を調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度においても、本研究はおおむね順調に進展していると考える。その理由として以下の二点が挙げられる。 1.前年度において想定していた、エリザベス朝英国における二大俳優であるリチャード・バーベッジとエドワード・アレンの間における影響と模倣の関係性について、今年度はより個別的に検証していくことが出来た。例えば、リチャード・バーベッジが演じたと推定されているウィリアム・シェイクスピアの歴史劇『リチャード三世』の主人公リチャード三世に関しては、エドワード・アレンの演じた幾つかの役柄がその背後に影として存在しており、その所作についてもバーベッジがアレンの所作を意識しながら考案していたことを推測することができた。結果として、ルネサンス演劇における舞台上の演技の変遷に関して、特に、エドワード・アレンの演技からリチャード・バーベッジの演技への展開の過程を図式化することが可能になったため。 2.17世紀初頭の英国の舞台において活躍した俳優について、その演技の特徴を調査していくことによって、リチャード・バーベッジのパーソネイションがどのように継承されていったかについて推測することが可能となった。結果として、1.において記載した研究結果と繋ぎ合わせることによって、初期近代英国における継承としての演技の発展をより具体的に解明していくことが可能となったため。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果をさらに発展させ、かつ総括することを目的として、本研究の最終年度となる平成25年度は、ルネサンス演劇における演技の継承・変遷と観客反応についての調査を行う。具体的な作業は以下の三点となる。 1.初期近代英国の舞台における役者の身体表現について、特に1590年代後半から1610年代までの期間における感情表現の型について調査を進め、その使用の状況について分類・分析を行う。 2.昨年度の、および1.に記載した調査において確認した身体表現について、現代における理論を援用しながら分析を行う。身体表現に関する近年の理論を調査した上で、ルネサンス期の舞台における所作がどのような意義と機能を持つのか考察する。また、これらの身体表現が観客反応とどのように関連しているかについて検討し、役者と観客の間の伝達の様相について分析を行う。 3.ルネサンスの時代において、英国の舞台における演技がどのように変化したのか、通時的観点からの総括的なまとめを行う。また、先行研究との関連において本研究の意義を確認し、さらに、今後取り組むべき問題点についても検討する。 なお、一次資料の閲覧と調査のため、イギリスの研究機関への研究調査を行う予定である。また、研究の途中成果は国内の学会において口頭発表として発表し、参加者との意見交換も行って議論の修正を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品費に関しては、今年度の研究遂行において必要となるルネサンス演劇の役者と観客、及び身体表現をめぐる理論に関する資料、並びに関係する映像資料の購入のために使用する。 消耗品費については、収集した資料の整理において必要となるファイルと文具類の購入のために使用する。 旅費に関しては、一次資料の閲覧のためのイギリスにおける研究調査に外国旅費として使用する。現時点においては、オックスフォード大学ボドリアン図書館での調査を予定している。また、研究の途中成果を国内の学会で発表するための国内旅費としても使用する。現時点では、日本シェイクスピア協会主催の第52回シェイクスピア学会(於鹿児島大学)における研究発表への参加を予定している。 謝金に関しては、今年度は作成した英語論文原稿のネイティブ・チェックを行ってもらうために使用する。
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