研究課題/領域番号 |
23520302
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
里内 克己 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (10215874)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | トウェイン / 未発表原稿 / 自伝 / 19-20世紀転換期 / 作家の晩年 |
研究概要 |
2011年度の研究の中心は、文学者Mark Twainが最晩年に執筆した『自伝』完全版(University of California Press, 2010)の第1巻を分析することにあった。これについて論じた書評が、2012年度中に学会誌『英文学研究』に掲載される予定である(現在査読中)。また、この自伝から得られた成果を参考にして、晩年期の作家の思考を知る上で不可欠でありながら、これまで等閑視されてきた未完の長編作品_The Refuge of the Derelicts_(1905-6)を分析し、2011年11月に京都大学英文学会において研究発表を行った。更に、その成果を基にして論考「老境のマーク・トウェイン--『落伍者たちの避難所』を中心に」を完成させた。これは、金澤哲(編著)『アメリカ文学における「老い」の政治学』(松籟社)と題する共同研究書の一章を構成する論考として年度内に出版された(2012年3月)。本論考は、晩年のTwainの(とりわけダーウィニズムをめぐる)社会意識・宗教意識と強く繋がった、人間の老い・死をめぐる作家の認識について論じたもので、同時期に書かれた自伝、エッセイ、未刊行長編群の分析も取り込んだ作品論である。 2012年1月には、シアトルで開催されたMLA年次大会に出席し、次いでカリフォルニア大学バークレー校で資料調査にあたった。その成果の一部は上述の論考に生かされることになった。また資料調査の過程において、同時代人であるHelen Kellerとの交友が、これまで考えられてきた以上に両者のアメリカ社会への考え方に影響を与えていることが分かってきた。次年度以降はそちらの方向にも留意して更に研究を進展させていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の実施計画のうち、Mark Twainの完全版『自伝』第1巻を分析し、晩年の作家の社会意識や老い・死をめぐる意識について論考を発表するという予定は、無事に遂行することができ、大きな進展があった。この作業を進めるなかで、数多いTwainの未発表原稿のうち当初念頭に置いていた_Which Was It?_とは別の、長編になる途上で中断した作品(_The Refuge of the Derelicts_)を発見し再評価することができた。それに関して年度内に研究発表を行い共著書として出版した。 晩年のTwainとアメリカ・世界の同時代情勢との関連を再検討する、という課題に関しては、アメリカ合衆国が初めて帝国主義的政策に乗り出した時期に起きた米西戦争をめぐるTwainとHelen Kellerとの接点が、資料調査の過程で浮かび上がってきた。今年度は発表までに至らなかったものの、この方向からの調査が、本研究を進展させるうえでの重要な基盤となる見通しがある。 初年度に関しては上記のような研究上の達成・展開があった一方で、未発表長編_Which Was It?_に関わる課題については、分析や訳出の遅滞が生じた。次年度においては、その方面に関してより力を入れて研究を進めていく必要があると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度(2011年度)の研究で立ち遅れた部分である、未発表長編_Which Was It?_の分析・訳出については、2012年度より訳出に力を入れる。また、本格的な作品分析の前段階の作業として、概説レベルの試論1本を年度内に完成させることを目指す。 上記の未発表長編の訳出・分析と関連して、帝国主義・植民地主義を糾弾する作家晩年のエッセイ群(例えば"To the Person Sitting in the Darkness"など)の分析も行う。その際、同時代人であり親交の深かったHelen Kellerの自伝・書簡類などにも目を向け、同時代のアメリカや世界の政治的・社会的情勢という文脈の中で作家Twainを捉えることを試みたい。2012年度内に研究発表を行い、論文として活字化することを目指す。これに関して海外での学会参加(MLAなど)やカリフォルニア大学バークレー校での調査を2012年度も予定している。 初年度の研究においては、刊行されたばかりの完全版『自伝』第1巻を重要な資料として活用することができたが、2年目以降もこのTwain『自伝』の分析を更に進める。第2巻以降が出版される時期については未定であるが、出版され次第そちらの分析にも取り掛かる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度(2012年度)における研究費の使用は、基本的に初年度(2011年度)と変わらないが、高額なパソコンなどは購入しない予定である。研究を進めるうえで不可欠なアメリカ文学研究関連書籍の購入が、物品費の主要な使途となる。また、分析・執筆作業に必要な電子辞書および事務用品類を購入する予定である。そして、初年度と同様に論考を共著の形で出版する見通しがあるので、製作費の一部負担に物品費を充てる可能性もある。それとの関連で経済的な余裕が生じた場合には、研究成果を広く発信するためのホームページ制作等に研究費の一部を使いたい。最後に、国内外での学会出席・資料調査のために旅費を使用する。研究経費70万円のうち旅費が40万円程度、それ以外の設備備品費・消耗品費が30万円程度という目安を立てている。
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