研究課題/領域番号 |
23520302
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
里内 克己 大阪大学, 言語文化研究科(研究院), 准教授 (10215874)
|
キーワード | トウェイン / 未発表原稿 / 自伝 / 19-20世紀転換期 / 作家の晩年 |
研究概要 |
2011年度より、文学者Mark Twainが最晩年に執筆した『自伝』完全版(University of California Press, 2010)の第1巻を分析してきたが、これについて論じた長めの書評が日本英文学会の査読を通過し、2012年末に『英文学研究』に掲載された。この作業から、やはり晩年に書かれた未発表原稿"Indiantown"や_Which Was It?_などの諸作品と、『自伝』との繋がりも見えてきたので、それを今後の研究に生かしていきたいと考えている。 2012年度はまた、晩年のTwainと親交を持った若きHelen Kellerの自伝を分析することによって、世代の異なる二人の自伝の書き手が共有していた時代意識(例えば米西戦争に対する批判的スタンス)や、〈自分を書く〉という行為をめぐる自意識的な考えを浮き彫りにすることができた。2012年後半に京都大学で開かれた日本英文学会関西支部大会で口頭発表し、2013年2月に入子文子監修・中村善雄編『水と光:アメリカの文学の原点を探る』(開文社出版)において活字化することができた。 総じて言うと、2012年度は、TwainよりKellerに力点を置いた研究活動を行ったが、Twainの『自伝』に書き込まれたKellerへの言及や、両者の親交・影響関係などを考慮するならば、脇道にそれたというよりも、当初の研究目的・研究計画を更に広く深く実践する方向で研究が行われたと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の実施計画のうち、Mark Twainの完全版『自伝』第1巻を分析するという作業は、『英文学研究』での書評掲載という形で無事に遂行することができた。またその作業の過程で、未発表作品"Indiantown"や_Which Was It?_の解釈に繋がるような記述を『自伝』のなかに発見することができたのは、大きな収穫だった。 また、晩年のTwainとアメリカ・世界の同時代情勢との関連を再検討するという課題に関しては、出版されたHelen Kellerをめぐる論考において、Twain, Kellerに共通する米西戦争に対する批判的態度という形で取り上げることができた。 上記のような研究上の達成・展開があった一方で、未発表長編_Which Was It?_の訳出作業に遅滞が生じているので、次年度にはこの方面に関してより力を入れて研究作業を進めていく必要がある。なお、海外での学会出張・資料調査には、校務等で時間を取ることができず、その分の旅費は使えずに終わった。
|
今後の研究の推進方策 |
現段階の研究作業において最も立ち遅れた部分である、未発表長編_Which Was It_の分析・訳出に関しては、2013年度の後期に研究休暇がとれることになったので、その時期に集中して作業を行う。2013年度のうちに半分を超える割合を訳出することを目指す。 2013年度の前期には、本研究に直接・間接に関わる二つの発表を行う。一つは5月26日開催の日本英文学会全国大会のシンポジウムで、そこではTwain, Helen Kellerの同時代人であるアフリカ系アメリカ思想家W.E.B. Du Boisの米西戦争への反応を取り上げる。もう一つは、8月1~3日に合衆国で開かれる国際Mark Twain学会での研究発表で、そこではTwain晩年の未発表作_The Refuge of the Derelicts_を論じる。(2011年度の研究成果の一部を利用する。)国際学会では同時に、内外の研究者と交流を深め、資料収集をすることによって本研究に役立てたい。 2011,12年度は、Twainの完全版『自伝』第1巻を主たる補助資料として分析を行ってきたが、2013年10月に第2巻が出版されるという情報を得たので、この年度の後期より解読・分析の作業を始めることにする。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度(2013年度)における研究費の使用方針は、基本的にそれに先立つ2年間(2011、12年度)と変わらない。研究を進めるうえで不可欠なアメリカ文学研究関連書籍の購入が、物品費の主要な使途となる。また、資料の分析・執筆作業に必要な事務用品・パソコン関連用品も購入する予定である。2013年度は8月に海外で研究発表・資料調査を行うことが確定しているので、そのための旅費を使うことになる。研究経費80万円のうち、旅費が40万~50万円程度、それ以外の設備備品費・消耗品費が30万円程度という目安を立てている。
|