研究課題/領域番号 |
23520303
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
吉中 孝志 広島大学, 文学研究科, 教授 (30230775)
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キーワード | 連合王国 / マーヴェル / 庭 |
研究概要 |
Andrew Marvell の文学的表現に影響を及ぼした具体的な人間関係のうち、今年度の実績として最も特筆できるのは、John Hall に関する成果である。ジョン・ホールの全著作物を精査することによって得られた知見から議論できることの一つは、イギリスの1640-50年代の政治・宗教、特に長老派と独立派、そして「法王教」との確執と敵対関係が、マーヴェルとホールとの表面上の友人関係を変容させていく過程を読み取ることができるということである。この知見は、Two Verbal Echoes of John Hall in Marvell’s Verse として国際学術誌 Notes and Queries に投稿、審査中である。また、英国 Hull History Centre に所蔵されている、聖職者であったマーヴェルの父親の手稿 (MS Sermons etc. of the Rev. Andrew Marvell) を閲覧調査し、父マーヴェルが子マーヴェルの表現方法にどのような影響を与えたかを探った。厳しい処罰を是とする厳格な規律保守の教育方針が、マーヴェル後半生の、英国国教会聖職者に対する敵愾心へと繋がり、マーヴェルの政治・宗教的散文作品にみられる痛烈な風刺的表現として結実していると考えられる。 脱党派的、脱イデオロギー的な人間関係を醸成したという仮説の下に今年度も継続した、場所としての「庭」に関する研究は、昨年度の研究成果を Marvell's Melons として発表するとともに、今年度の研究成果を「マーヴェルの庭と17世紀の庭(中編)」として発表した。後者には、ルネサンス期の庭のうち、ヴィッラ・デステ、ヴィッラ・アルドブランディーニの庭に、マーヴェルの詩的イメージの材源となった可能性のある彫像および壁画を現地調査によって発見したことも実績として含まれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度研究計画3年目にあたる平成25年度は、在外研究の観点からはサバティカル制度によってかねてからの計画であった Hull History Centre での調査を行うなど大幅に遅れを取り戻すことができたが、それでも財源不足からオックスフォード大学で行うはずの the Lord Wharton に関する研究調査を全く行うことができなかった。また国内での研究は、主に国会図書館において行った John Hall に関する研究調査では大きな収穫があったが、昨年度の成果であるワーズワスを具体例とする庭の特質に関する研究を発表するための実質的な論文執筆に多くの時間を費やすことになった。想定外の知見を得ているという点では、研究は成功していると言えるが、当初の研究計画どおりに進んでいないということではやや遅れているといわざるを得ないというのが理由である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は本研究計画最終年度となり、時間的にも資金的にも十分なものが残されていないため、マーヴェルの人間関係のうち、当初計画した William Davenant と the Lord Wharton に関しては次回の研究プロジェクトに移すのが現実的であるように思われる。代わりにこれまでの研究過程の中で新たに浮かび上がってきた Robert Hooke を含む Royal Society との関係やスタンリー・サークルの中のもう一人の人物 James Shirley との関係、間テクスト性を、 Early English Books On Line によって調査、考察し、マーヴェルの表現技術についての一定の成果を纏めこととする。
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次年度の研究費の使用計画 |
文献を購入するための図書費として予定していたが、会計年度末までに発注が間に合わなかったため。 文献収集のための図書費、国会図書館への出張費として使用する計画である。
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