研究概要 |
本研究の目的は、G. チョーサーの『カンタベリー物語』(The Canterbury Tales)の2つの代表的な写本とそれに対応する2つの代表的な刊本を取り上げ、4つのテクストのパラレルコンコーダンスを作成し、チョーサーの本文批評及び言語解析に貢献することである。2つの写本は、当該作品80余写本のうち最も注目されているHengwrt (以下、Hg)写本とEllesmere (以下、El)写本、2つの刊本は、Hgに依拠したN. Blake, ed. (1980) The Canterbury Tales, Edward ArnoldとElに依拠したL. D. Benson, ed. (1987) The Riverside Chaucer, OUPを取り上げた。 4つのテクストのパラレルコンコーダンスはこれまで作成されてはいない。既に作成済みの韻文テクストに加え散文テクストの写本のパラレルコンコーダンスを完成させ、た。Adam Pinkhurstが両写本の写字生であると指摘されて久しいが、韻律の影響を強く受けない散文においても、写本の異動が確認された。写字生の編集方法、また現代の編集者の写本への態度に対して、学会に対して有益な資料が収集できた。2012年7月にアメリカポートランドで開催された新チョーサー学会では、特に否定表現に注目して、写本の異同及び刊本の処理について発表した。 本研究は、チョーサー及び中英語テクストに関して、写本まで含めた電子コーパス化という国際的研究動向に対応している。『カンタベリー物語』の写本と刊本を組み合わせ、編集方針を相対化する比較コンコーダンスは、国内外でこれまで作成されていない。ここでは同一の写字生の編集過程と現代の刊本での編集過程が同時的に比較・記述でき、チョーサーの言語に対する新しい研究手法を提案できる、と考えている。
|