本研究はイギリス文学がイギリス国民意識の形成にいかに寄与したかという認識について多面的に分析し、その影響力の本質を明らかにすることを目的とする。イギリスの社会と文化は17世紀以降の近代化の過程で、成熟した国民意識及び国家意識を構築したといえる。この国民陶冶において果たした人文科学の役割はイギリス文学の公共的特質に負うことに注目しなければならない。本課題においては、特に社会的哲学的科学的思想の展開と多様化が顕著に見られる18世紀後半から20世紀までのイギリス文学における公共的特質が国民意識形成において構築的性質を有するという仮説を実証し、ヨーロッパ近代社会におけるイギリス文学における複合的性質を検証し、合わせて文学的主題の今後の方向性を検証した。 本年度は研究最終年度として特に以下の課題の分析とこれまでの研究総括を行った。 (1)文学的主題と社会変革との関連が顕著であるロマン主義時代文学と国家主義台頭との関連、(2)19世紀イギリス文学と宗教的懐疑の関係、(3)20世紀イギリス文学における宗教的主題の揺れ、またイギリス社会思想におけるコモンセンスの性質を総合的に分析し、ヨーロッパ近代社会においても特色あるイギリス国民意識の構築的性質とイギリス文学における複合的特質とその主題の方向性を検証した。以上の分析結果は現在進行中の科研課題「イギリス文学における国家意識構築と宗教的主題の関連研究」において体系的分析として発展研究の予定。本研究結果は『イギリス国民意識形成に果たすイギリス文学の公共的性質の研究』として刊行準備を進めている。 本年度は本研究領域を対象とするイギリス及び日本国内での資料収集及び分析、また学会発表を遂行した。
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