研究課題/領域番号 |
23520313
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
新井 英永 大阪府立大学, 人間社会学部, 准教授 (00212598)
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研究期間 (年度) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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キーワード | ドゥルーズ=ガタリ / D・H・ロレンス / ジェイムズ・ジョイス / モダニズム / 変様態(アフェクト) / 西方への旅 |
研究概要 |
近現代英米文学における様々な環太平洋旅行表象の検討を行うのが本研究の目的である。この目的を達成するために、実際の分析作業においては、ミシェル・フーコーやエドワード・サイード、ドゥルーズ=ガタリ等に代表されるポスト構造主義ないしポストコロニアル批評の知見を最大限かつ批判的に活用することを前提としている。 そこで、まず、上述の思想家のうちドゥルーズ=ガタリに着目し、その旅の理論とともに本研究に重要な意味を持ちうる哲学論であると同時に芸術論でもある彼らの『哲学とは何か』を取り上げ、D・H・ロレンスのエッセイ "The Novel and the Feelings" との比較検討を行った。具体的には、『哲学とは何か』における変様態(アフェクト)等の概念を検討し、ロレンスの感情観ないし情動観と比較し、小説の情動論的読解の今後の可能性を探った。たとえば、ロレンスを太平洋への旅とその表象に駆り立てた情動を理解することは、彼の長編小説『カンガルー』のみならず、他の環太平洋諸国あるいはそこに住む人々を表象したテクストを理解するうえで有意義であると判断したためである。 また、ロレンスと同時代のモダニストであるジェイムズ・ジョイスの短編 "The Dead" における西方への旅の表象の分析を行った。直接の参照軸としたのはロレンスの同時期の短編 "The Shadow in the Rose Garden" であるが、ロレンスは『セント・モア』という作品でジョイス同様西方への旅を表象しており、二人のモダニストの太平洋に対するスタンスの違いを把握する意味で有益であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
植民地主義や帝国主義を視野に入れつつD・H・ロレンスを含む英米作家による様々な「旅」のあり方を分析・評価するドゥルーズ=ガタリの著作、とりわけ今回は『哲学とは何か』を参照することにより、ロレンスの『カンガルー』(1923)を旅と情動という観点から読解する視野が開けたことは大きな収穫であった。 また、これまで対照的なモダニストとされ差異が強調されることの多かったロレンスとジェイムズ・ジョイスの短編を、旅というモチーフやジャック・ラカンの「現実界」という概念に着目しつつ比較検討することにより、興味深い類似点を見出すことができ、モダニズムの新たな一面を探求する視座を提示できた。 その反面、ジェイムズ・ジョイスの研究に予想以上の時間がかかり、ロレンスと直接・間接にかかわりのあった英米の作家のうちキャサリン・マンスフィールドの作品分析は多少なりとも遂行できたものの、十分に展開することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成23年度の成果を踏まえて研究の発展・拡大を図る。具体的には、ロレンスやマンスフィールド等の19・20世紀文学における環太平洋諸国の旅行表象をたどる。その他に研究を予定する主な作家は、英文学では、その作品がロレンスの太平洋行きの刺激になったとされるR.L.スティーヴンスンやサマセット・モーム、ヴァージニア・ウルフ、マルカム・ラウリー、グレアム・グリーン、ウィリアム・ゴールディング等である。中でも、南海諸島や東南アジア諸国、日本を含む環太平洋地域を広範囲に旅行かつ表象し、メキシコではD.H.ロレンスと興味深い出会いを果たしているモームの再検討を重点的に行いたい。 米文学ではD.H.ロレンスが『アメリカ古典文学研究』で取り上げたフェニモア・クーパー、 R.H.デイナ、ハーマン・メルヴィルといった作家、さらにはジャック・ロンドンや、ジャック・ケルアック等の作家たちを研究対象とする。とりわけ、階級意識、ニーチェからの影響等の点でロレンスと興味深い類似を示すジャック・ロンドンは、カナダやアラスカ、日本、ハワイやタヒチ、ロンドンの貧民街等を放浪あるいは取材しており、その進化論の影響が色濃く投影された旅行表象の分析を集中的に行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に引き続き、英米文学・思想ならびに環太平洋歴史・社会関係図書を購入する。 また、データ・ベース化作業には高性能のコンピューターと関連ソフトが必要であるため、これまた引き続き、環境の充実を図る。 旅費については、国内外での研究成果発表ならびに資料収集を予定している。また、環太平洋地域の文学・文化ないし旅行表象を研究する者が議論しその成果を発表・出版する場として、「英米モダニズム文学・文化と環太平洋旅行表象」(仮称)研究会を立ち上げるための研究打合せも必要となろう。 さらには、すでに国内で出版したD・H・ロレンスに関する単著を、最新の研究成果等を取り入れ英語版で出版することを目指すため、英文校正による支出も見込んでいる。
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