研究課題/領域番号 |
23520313
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
新井 英永 熊本大学, 文学部, 教授 (00212598)
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キーワード | ジャック・ラカン / スラヴォイ・ジジェク / D・H・ロレンス / ジェイムズ・ジョイス / モダニズム / 現実界 / 西方への旅 |
研究概要 |
近現代英米文学における様々な環太平洋旅行表象の検討を行うのが本研究の目的である。この目的を達成するために、実際の分析作業においては、ミシェル・フーコーやエドワード・サイード、ドゥルーズ=ガタリ等に代表されるポスト構造主義ないしポストコロニアル批評の知見を最大限かつ批判的に活用することを前提としている。 本年度は、上述の思想家に加えて、ジャック・ラカンとスラヴォイ・ジジェクによる構造主義的ないしポスト構造主義的精神分析批評を援用し、ロレンスの短編 “The Shadow in the Rose Garden” とロレンスと同時代のモダニストであるジェイムズ・ジョイスの短編 “The Dead” の比較研究を継続して行った。両作家の旅の方向性や捉え方の違いを把握し、ロレンス等の環太平洋旅行表象の特徴を際立たせるという目的を持った試みであったが、実際の分析は比較の前提となる両者の共通性に焦点を当てて行った。一定の説得力ある議論を展開できたためか、Heather Lusty と Matthew J. Kochis を編者とする Joyce & Lawrence: The Modernist Odd Couple という論文集への収録が認められ、かつフロリダ大学出版局による査読も通過した。ただし、書き直しを求められたため、年度末に再提出した。拙論 “An Encounter with the Real: A Lacanian Motif in Joyce’s “The Dead” and Lawrence’s “The Shadow in the Rose Garden” を含むこの論文集は、遅くとも2013年度中には出版されるはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
区分 やや遅れている。 これまで対照的なモダニストとされ差異が強調されることの多かったロレンスとジェイムズ・ジョイスの短編を、旅というモチーフやジャック・ラカン/スラヴォイ・ジジェクの「現実界」という概念に着目しつつ比較再検討した。その結果、興味深い類似点を見出しモダニズムの新たな一面を探求する視座を提示したことが、Joyce & Lawrence: The Modernist Odd Couple という論文集の編者たちに評価されたことは大きな収穫であった。この論文集はフロリダ大学出版局によって出版される予定であることから、世界の研究者による議論の活性化に、拙論が寄与することが期待される。 その反面、フロリダ大学出版局の査読者によって求められた論文の修正に時間がかかり、ロレンスと直接・間接にかかわりのあった英米の作家のうちキャサリン・マンスフィールドの作品分析は引き続き遂行できたものの、論文という形で結実するには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の成果を踏まえて、引き続き研究の発展・拡大を図る。具体的には、D.H.ロレンスやマンスフィールド等の19・20世紀文学における環太平洋諸国の旅行表象をたどる。その他に研究を予定する主な作家は、英文学では、その作品がロレンスの太平洋行きの刺激になったとされるR.L.スティーヴンスンやサマセット・モーム、ヴァージニア・ウルフ、マルカム・ラウリー、グレアム・グリーン、ウィリアム・ゴールディング等である。中でも、南海諸島や東南アジア諸国、日本を含む環太平洋地域を広範囲に旅行かつ表象し、メキシコではD.H.ロレンスと興味深い出会いを果たしているモームの再検討を重点的に行いたい。 また、ロレンスの環太平洋旅行表象研究はすでにまとまっているが、必要な加筆修正を施した英語版の出版を目指したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
前年度に引き続き、英米文学・思想ならびに環太平洋歴史・社会関係図書を購入する。 また、データ・ベース化作業には高性能のコンピューターと関連ソフトが必要であるため、これまた引き続き、環境の充実を図る。 旅費については、国内外での研究成果発表ならびに資料収集を予定している。また、環太平洋地域の文学・文化ないし旅行表象を研究する者が議論しその成果を発表・出版するために、研究打合せも必要となろう。 さらには、すでに国内で出版したD・H・ロレンスに関する単著を、最新の研究成果等を取り入れ英語版で出版することを本格的に目指すため、英文校正による支出も見込んでいる。
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