• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2012 年度 実施状況報告書

英国十八世紀における牧歌の研究

研究課題

研究課題/領域番号 23520317
研究機関駿河台大学

研究代表者

海老澤 豊  駿河台大学, 法学部, 教授 (90298307)

キーワード英国(連合王国)
研究概要

十八世紀英国の牧歌と題する研究の2年目である本年度は、「スペンサーの『羊飼いの暦』」および、「十八世紀英国における漁夫牧歌」と2本の論文を執筆した。
前者は昨年度に執筆した論文「ジョン・ゲイの『羊飼いの一週間』」の原型になった、エドマンド・スペンサーの『羊飼いの暦』の特質について考察したものである。スペンサーは十二ヵ月を題名とする十二篇の牧歌で一冊の牧歌集を編んだ。ウェルギリウスなど古典牧歌からの影響もさることながら、中世ラテン詩人マンチュアヌスや、フランスの詩人クレマン・マロの影響も強い。詩人自身のペルソナであるコリン・クラウトを登場させ、時間の推移と呼応するように、コリンの恋愛も次第に破滅に向かっていく。またスペンサーの牧歌には宗教的・政治的な含意が強いことも特徴で、カトリックに対するプロテスタントとしての攻撃は随所に見られる。またエリザベス女王を思わせる人物が幾度か現われるが、彼女は田園の女王として牧歌世界の平和と秩序を体現している。
後者はイタリア詩人サンナザロの『漁夫牧歌』を模範とする一群の作品を論じたもので、日本では初めての論文と自負している。サンナザロは田園を海浜に、羊飼いを漁師や釣り人に置き換えて、牧歌の新たな流れを打ち立てた。英国では十七世紀にフィニアス・フレッチャーが釣り人を主人公にした自伝的な『漁夫牧歌』で、この流れを受け継いだ。十八世紀になるとウィリアム・ダイパーが人魚や海神を歌い手にした『水の精たち、すなわち海の牧歌』を書いた。これはルキアノスの『海神たちの対話』に倣ったもので、古典牧歌を換骨奪胎しながらも、ダイパーは独自の世界を作り上げている。
この他にもモーゼス・ブラウンは、ウォルトンの『釣魚大全』を韻文化した『釣魚牧歌』を書いたが、論文には枚数の関係で入れられなかった。別の機会を期したい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本年は昨年度の研究を引き継いだ形で、スペンサーの『羊飼いの暦』について考察した。十八世紀に起きた牧歌論争では、フィリップスとポープが互いに英国の牧歌詩人スペンサーの衣鉢を継ぐのは自分であると主張した。フィリップスはスペンサーばりの古語や方言を駆使して『牧歌集』を書いた。またポープ側に立つジョン・ゲイの『羊飼いの一週間』はフィリップスの作品(ひいてはスペンサーの牧歌)をパロディにしたものに他ならない。したがってスペンサーの作品を詳細に読み解くことは、牧歌論争の争点を明らかにするためにぜひとも必要な作業であった。
また本年の主たる研究対象であった漁夫牧歌についても、一定の成果を残すことができた。原典となったサンナザロの『漁夫牧歌』、英国初の漁夫牧歌であるフレッチャーの『漁夫牧歌』、さらに大海原を舞台に据えた唯一の漁夫牧歌であるダイパーの『水の精たち、すなわち海の牧歌』について論文にまとめることができた。惜しむらくは枚数制限のために、ブラウンの『釣魚牧歌』を論文に入れることができなかった。しかし大半は完成しているので、別の機会に発表したいと思っている。
昨年からの課題であった古典牧歌、テオクリトスとウェルギリウスの作品についても、英訳によるテキスト読解、複数の批評や研究書のリサーチも順調に進んでおり、現在は彼らの牧歌について論文を準備しているところである。

今後の研究の推進方策

当初の計画とは前後しているが、平成25年度はすでに論文の形で執筆しつつある「十八世紀英国における都会風牧歌」をまずは仕上げたい。牧歌はそもそも田園で羊飼いが歌う形式を取るが、漁夫牧歌と同様の変種である都会風牧歌では、ロンドンや大都会を舞台にして、上流階級の婦人や労働者階級の人々が歌い交わす。スウィフトの小品が嚆矢とされているが、都会風牧歌をジャンルとして確立したのは、モンタギュー夫人、ポープとゲイである。彼らは上流階級の悪徳を風刺することを念頭に置きながら、互いに設定や表現を盗み合って都会風の牧歌を作り上げた。また群小詩人たちも都会風牧歌を書いたが、彼らの描く歌い手は煙突掃除夫やごみの収集人など社会の底辺で暮らす人々である。このように都会風牧歌と言っても、題材や内容には多様性があり、時代の変化とともに都会風牧歌も次第に変質していくのである。このあたりについて論文をまとめたい。
またテオクリトスとウェルギリウスの牧歌についても、徐々に研究を進めているが、研究書や注釈や論文は無数にあると言ってもよく、これらについても引き続き取り組んでいく予定である。

次年度の研究費の使用計画

昨年度に引き続き、研究費の大半を図書費として使う予定である。十八世紀の牧歌はほとんどが再版されておらず、当時の原書を購入することが研究の第一歩だからである。

  • 研究成果

    (3件)

すべて 2012 その他

すべて 雑誌論文 (2件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] スペンサーの『羊飼いの暦』2012

    • 著者名/発表者名
      海老澤 豊
    • 雑誌名

      駿河台大学論叢

      巻: 第44号 ページ: 23-52

  • [雑誌論文] 十八世紀英国における漁夫牧歌2012

    • 著者名/発表者名
      海老澤 豊
    • 雑誌名

      駿河台大学論叢

      巻: 第45号 ページ: 27-54

  • [備考] スペンサーの『羊飼いの暦』

    • URL

      http://www.surugadai.ac.jp/sogo/media/bulletin/Ronso44/Ronson.44.23.pdf

URL: 

公開日: 2014-07-24  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi