研究課題/領域番号 |
23520318
|
研究機関 | 和洋女子大学 |
研究代表者 |
佐久間 みかよ 和洋女子大学, 言語・文学系, 教授 (00327181)
|
キーワード | 19世紀アメリカ文学 / 島の表象 / メルヴィル / ソロー / ディキンスン |
研究概要 |
島の表象について、昨年度の考察に基づき、地理的な意味のみならず心理的な意味において広く考察した。本年の最大の収穫は、PAMLAのパネルで島の表象が採択されたことである。19世紀中頃アメリカは、太平洋諸島への勢力圏の拡大と、アメリカ大陸外からの大量の移民を受け入れ、地理的にも心理的にも大きな変容をした。こうした変容が文化や人々の意識にもたらした影響を捉えるのに、アメリカ自体を島と捉え、政治と文化の影響をどのように受け止めたかと考察することが可能ではないかと考えた。 そこで、PAMLAのパネルで、19世紀から20世紀へのアメリカ文化の変容を島の表象に注目して考察することを提案した。シアトルで開かれたPAMLAの年次大会では、日米の著名な研究者、下河辺美知子氏(成蹊大学)、巽孝之氏(慶応大学)、メアリー K ・バーコウ・エドワーズ氏(コネチカット大学)、メアリー・ナイトン氏(ウィリアム アンド メアリー大学)を招聘し、「島とアメリカ文化」のパネルを企画・司会をした。このパネルで、ハーマン・メルヴィル、ジャック・ロンドン、ウイリアム・フォークナー、バネッサ・ウオーハイトらの作品において、アメリカを島と捉える表象、アメリカが占有した島の表象に注目し、アメリカと世界の関係を考える時、アメリカ政治と文化のもつ両義性から生まれる矛盾が明らかになった。 これらをもとに、アメリカとその勢力下の島の関係から、世界とアメリカの関係が考察できること、また、アメリカを島と考えることで、浮き彫りにされる、孤立性の問題が文学作品において精査が必要であることがわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
PAMLAのパネルにおいて日米の学者からの発表を聞き、意見交換ができたことによって、当初考察していたメルヴィル、ソローだけでなく、時間的また地理的に多くの作家を射程にいれて考察できる問題であることが認識できた。また、政治的情勢が文化にあたえた影響として、海外進出、自然環境といった問題も、島の表象から読み解く可能性が示唆され、当初考察した以上に、波及性を持ったテーマであることがわかり、地理的、時間的にもその波及性を研究し、本課題を深く研究できる視野がひろがった。 当初、メルヴィル、ソローの研究を主眼にしていたが、その射程を広げて、島を文化事象として研究することを目途にしていきたい。 また、2013年度に開催されるメルヴィル国際学会での発表も採択され、この発表では、メルヴィルとディキンスンを考察対象とし、孤立主義的立場について考察を行い、さらなる意見交換が期待できる。以上、本課題の研究を発信する機会を得たことにより、より大きなコンテクストで、検討する可能性が生まれ、当初予定していた以上に拡がりを持って進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
PAMLAのパネルでえた成果を論集として発表する計画を遂行する予定である。この論集は、広く世界に発信する目的で、英語論文とし、波及効果を持ったテーマであることが確認できたので、パネルの発表者だけでなく、さらに日米から寄稿者を募っていく予定である。論集は10人程度の執筆者を予定しているが、日米から広く執筆者が島をテーマにした様々な論考をよせていただける予定である。共編者には、巽孝之教授らを予定している。また、メルヴィル国際学会に向けて、島の表象から考察する孤立主義について研究をすすめたい。 メルヴィル国際学会では、メルヴィル、ディキンソンを中心に考察したいが、この学会参加でえられた知見から、アメリカの孤立主義と世界進出コンテクストについて考察していきたい。 本課題をまとめるにあたって必要となる資料を、文化的、政治的コンテクストの調査で必要となる19世紀当時の刊行物は、ニューヨークまたは、ボストンで入手し、またニューベッドフォードまたはナンタケット捕鯨博物館にいき調査する予定である。これらをもとに包括的な島のイメージを探り論文としてまとめたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、PAMLAでのディスカッションをもとにその成果を論集として刊行したいと考えている。海外の出版社を目下探しているため、これに付随する費用の支出を考えている。執筆者が日米にわたるので、メールでのやりとりになるが、必要に応じて寄稿者との打ち合せなども考えらえる。また、カレンティ・テイ・ヤマシタ氏の短編の再掲許可をえているが、これに関した費用も予定している。 本論集に関して助言をあおいでいるロバート・リー元ケント大および日大教授が来日するので、その時にあわせて鳥のイメージの詩をテーマに講演を行ってもらい、これへの謝金も考えている。 ワシントンDCで開かれる国際学会の発表のための参加の費用を予定している。 また、メルヴィル、ソロー、ディキンスン関係の考察、および、政治的文化的な当時の資料を収集するため、19世紀の刊行物を中心にニューヨーク、マサチューセッツの図書館、捕鯨博物館で調査するための海外出張の費用を予定している。
|