本年はニューヨークおよび、昨年度調査に行けなかったナンタケット島とその周辺での調査ができた。ニューヨークでは、メルヴィル晩年にあたる資料を集め、またナンタケット島、ニューベッドフォードでは、捕鯨に関する資料を集めることができた。これにより1830年代ころから1890年代ころまでのメルヴィルをとりまく資料の補充ができた。 これらの調査の一部を、国際メルヴィル学会、マーク・トウェイン協会の年次大会で発表した。国際メルヴィル学会では、メルヴィルとエミリィ・ディキンスンの戦争詩に注目し、中央の文壇から距離を置いていた二人の戦争詩の特徴と中央との距離の取り方について、孤立と共存をキーワードに考察し発表した。また、マーク・トウェイン協会のシンポジウムでは、メルヴィルとトウェインの戦争表象と形式へのこだわりを分析した。この発表をもとにして作成した論文はトウェイン協会の学会誌に掲載された。 上記の発表から、メルヴィルが晩年になるにつれ、形式にこだわるようになったのは、アメリカという国家に対する地政学的意識の変化の表れとも連なっているという仮説をたて、メルヴィルの美学に連なるフォームに対する意識とアメリカという国を地図上で地政学的に再考する政治的無意識の関係をまとめることで、本課題のテーマ、孤立と共存の思想の具体例として説明することとした。メルヴィルの美意識と地政学的意識の関連をまとめるにあたり、テキストでの表象としてナンタケット島に対するロマンティックな記述に注目し、ナンタケット島が当時持っていた意味とメルヴィルの捉え方を比較し、本年集めたナンタケット島に関する資料を解読することで論文としてまとめる予定である。
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